ゲルニカ

藤林靖晃



 午前一時。焼けた砂の上。熱い土砂を噛む。かすかな、ほんのかすかな月の光。徐ろに歩く。一瞬の闇。ふいに三人目の俺が殺される。深い穴の中に俺は居る。一億回目の死? 耳をそばだてる。音が無い。音? 波の音は。風の音は。闇だけが続く。一万時間。闇。ただひたすら闇。空と地が付着した。世紀の終焉。
 午後七時。ギラツク陽。裸ノ躯ヲ焼ク。走ル。タダ走ル。走ル。走ル。飲ム。飲ム。食ベル。食ベル。叩笑ガヒビキワタル。コノ群衆ハ誰ナノカ。四人目ノ僕ガ今生レタ。君ハ何処ヘ行クノカ。ニューエイジヘ旅スルノサ。ソコデ何ヲスル? 激シイ怒リヲ笑イニ代エルノダ。君ニハワカルマイ。僕ハ楽シムノサ。エ? 楽シムンダヨ。何ヲ? 何ヲッテ。ツマリ。何カラ何マデモサ。何ガソンナニ楽シインダ? 一切合財ガダ。ソンナ莫迦ナ。有ルンダヨ。捜セバ、エ? フフフ。
 午後一時。私は五人目の私を求めて野原をかけめぐる。汗の塊に変化する。傷だらけの四肢は止まることがない。何ごとかしきりに到来する不可思議な声。声だろうか? 呟やき。その呟やきの中に人の形がうっすらと見える。いやそれは人ではないかもしれない。あるいはこれは夢なのかもしれない。夢の中の夢。いつ終わるとも果てしのない光景。追う。ひたすらに追い続ける。む。何かが見えはじめた。ただまっしぐらに追う。追う。むむむ。
 午後八時。都会ノ路上。カツテ同胞ダッタ人タチハミナ姿ヲ消シタ。コレガ君ノ宿業サ。エ? 苦シイカネ。フフフ。出ルモノハ笑イダ。未成ノ嗤イ。俺ニハコノ汚レタ路サエアレバイイ。ソウシテ俺ハココニ立ッテイル。立チツヅケルノダ。ヒトリデ? 何ノ為ニ。理由ハナイ。フフフ。理由ナンゾイラナインダヨ。俺ト言ウ君。君ノタメニ一杯ノ水デ祝杯ヲアゲヨウ。サア。早ク、早ク。俺ハ沸トウスル大気ノ中ニ立チツクス。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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