Iその内界(もっともらしく古典的に)
月魂(つきしろ)――真白き霧の城。
闇は彼岸の華に揺れ
御影石は月影に濡れる。
死の淵の無音(しじま)より
縞瑪瑙の硝子を透す
墓番人(はかもり)の転寝(うたたね)を縫う酒宴(さかもり)の歌鎖。
虚無僧の虚無を飾る
夢想者の夢想を包む
黝(かぐろ)き緞帳。闇の魔の眼差し。
闇の魔の間断(やみま)なき私語(オルゴール)。
IIその外界(明るく軽快に)
欧州(ヨーロッパ)の臀部、
丁抹(デンマーク)の衒学者(フィロソフィスト)
ゼーレン=キルケゴール。
深夜の墓地を歩きつつ
呻くような咳嗽をひとつ。
(ゼーレン!)
頬を切る夜気が顫える。
無音(しじま)の中に
ゼーレン……、ゼーレン……。
ゼーレン・キルケゴールの眼差しに、
精霊の切燈籠(きりこ)が凍る。
闇の魔の間断(やみま)なき私語(オルゴール)。
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