闇の私語(オルゴール) *不眠に悩むキルケゴールに捧げる冗談詩

立木鷹志



 Iその内界(もっともらしく古典的に) 月魂(つきしろ)――真白き霧の城。 闇は彼岸の華に揺れ 御影石は月影に濡れる。 死の淵の無音(しじま)より 縞瑪瑙の硝子を透す 墓番人(はかもり)の転寝(うたたね)を縫う酒宴(さかもり)の歌鎖。 虚無僧の虚無を飾る 夢想者の夢想を包む 黝(かぐろ)き緞帳。闇の魔の眼差し。 闇の魔の間断(やみま)なき私語(オルゴール)。  IIその外界(明るく軽快に) 欧州(ヨーロッパ)の臀部、 丁抹(デンマーク)の衒学者(フィロソフィスト) ゼーレン=キルケゴール。 深夜の墓地を歩きつつ 呻くような咳嗽をひとつ。 (ゼーレン!) 頬を切る夜気が顫える。 無音(しじま)の中に ゼーレン……、ゼーレン……。 ゼーレン・キルケゴールの眼差しに、 精霊の切燈籠(きりこ)が凍る。 闇の魔の間断(やみま)なき私語(オルゴール)

[ホームページ(清水)] [ホームページ(長尾)] [編集室/雑記帳]
エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.3目次] [前頁(さよなら東京)] [次頁(メトロノームを輝かせて)]
mail: shimirin@kt.rim.or.jp error report: nyagao@longtail.co.jp