濁り河

倉田良成



時計機をこわしながら熱くなる 少年期のリュックから ひとつぶの塩 氷ったままの火を採りあげる 眼をつむると炉が視え 間近の冬日よりも冷える腸(はらわた) この朝のとどろき…… 落入ればやがて 濁り河 投げだす足を遠くして (一秒は暗い) 春のように 踏みわたる水底 往ってもどらない 鳥目がちに示される夕暮の流体に 徐々に揺らめいてくる 樹は 樹のままだ ことしの短い紅葉の環のなかで ほのかに迸る花火を釣り上げた? 恐い顔で近づいてくる母がいる 庭に呼ぶ声 植えるなら菊 接種の匂いをたてて降りる霜 「私もときおりは散歩に出る 暖かい日には過去の前面が青空(そら)になる」 地図を燃やして 全山に触れる 画のなかの人物は私ではない 雨を嫌って飛ぶ鷹の滴

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.3目次] [前頁(海に沿って)] [次頁(片肺まで枯葉)]
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