片肺まで枯葉

荒川みや子



夜の中へ入ってゆく。冬至からは少しづつ光があるだろうよ。ね。 縄の目くらい明るいのはまだまだ 火を焚き、幹線道路からはずれた家の中で 男が声をかけている。 「今晩わ。ただいま帰りました。 酒は飲んでおりませんよ。」 起点に帰ってゆく。起点の声。 「菜種のおひたしにおぼろ月でもナイ。マフラーなんかしてオカシイヨね。」 家の中で火を焚く。袖をよごして 縄を編む。 「細やかな柄。ぱあっとこういう風にひろがって。」 ヒトが終りになるとき払ったらいい。それで。 風のあつまるところ。音があつまる。あつまる。縄目の起点。 枯葉抱えて火を焚く。林に鳴る風。ソレマデハ! 夜の中へ入ってゆく。冬至からは少しづつ光があるだろうよ。ね。 あかるくなったら、いつか。 世田谷の植物とくらしている女のヒトの顔をみに 枯葉抱えて きっと行く。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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