追悼、のように

田中勲



彼は詩人ではないが、詩を書く 彼は予言者ではないから、予言する あまりにも 自然な成り行きだけど 殴り合いの追悼式だったか、…… 海底に沈む島がある たぶん、もうひとつの宇宙がみつかるまでの 約束された未来には 男が女になる病気以上に関心が薄く おのれの死でさえも 彼には偶然の未来 深刻に思いめぐらすことがなかったようだが 化かし合いの追悼会だったな、…… ずいぶんな低空である 風をきる羽音が 部屋の空気を一瞬引き裂いて 肩に文鳥がとまったときの ひゃっとする さむい夢に堕ちる うたたねを覚めれば、いつもきまって 外は雪だった だまし討ちの追悼会もあるさ、…… このところ 目覚めに聞く鳥の鳴き声が なにかおかしい この土地で二十年の間ずっと聞いてきて この一年は日課のように 嗄れた鳴き声を気にしている わめき合いの追悼会だったぜ、 こうして 彼の手紙を読み返している 古い宇宙を 逃れるわけにはいかない

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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