白濁した街

清水鱗造



僕は日がまぶしかったので 帽子のひさしを前に折り曲げた 露出オーバーのコンクリートの道 そこを美しい人妻が曲がっていく たしかにその曲がり角で人妻の人生は くっきりと分かれたのだ リゾートの白いズボンをはいて 僕は坂をおりていく ここではみんな貴族になる なにかしら白濁している なにかしら この街はおかしいのだ なんで犬がしゃべるのか なんでスカートをひらめかせて 人妻が角を曲がっていくのか そしてはずかしいお喋りのなかに ネガになった遊び人の 顔が 坂を下りていく僕にはっきりと 合図を送った 恋などなかった ただ白濁した街を ひさしを下げながら ゆっくりと下っていったのだ

[ホームページ(清水)] [ホームページ(長尾)] [編集室/雑記帳]
エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.5目次] [前頁(マリヤの隙間)] [次頁(塵中風雅 2)]
mail: shimirin@kt.rim.or.jp error report: nyagao@longtail.co.jp