花器の雪にしずむ

沢孝子



北の街に透きとおる 水酔いのくらしには 花器のような湖にみだれる衣の波襞が 雪に浮きしずみする それはどこからやってくるのだろう いつものぼりつめる茎の無智 離れない月夜の水の儀式が 裏返る葉の一枚一枚の記憶にながれて 今 思いだしている 急激な波のおこりを待つ習慣にひろがる 剣山の針のような歴史の波 葉裏の眼が語りだす 一枚の葉がながれつく 紫がなしの南の砂浜に 立ち上ってくる茎の 真の一系――安定してきた 花器の雪にしずむ衣の波襞の乱れ 水酔いのくらしへ 突きささる 飢えているウニ! あちらこちらでざわめく葉裏の眼が 急激な波のおこりを待つ 水の儀式の習慣で 月夜へながれ 祖先がえりする 突きささるウニの南の砂浜に住む 飢えの泉の充実があり その余韻にひたる 一枚の葉の満月の礼拝を凝視する 

北の庭の雪に浮きしずみする 虚構の峯をかぶとにする 青葉ぶしょうの 花のわざの別れの 四季に散る 花器のような湖にみだれる衣の波襞に よぎる寒色の花びら いつものぼりつめる木の無智の 一本一本の枝の記憶にながれて 孤独の月をひしと抱く 水の恋情の 枝先の眼が語る 切り落とす要領のような歴史の波に 透きとおる 水酔いのくらしのふるえは 泉なのだろうか 一本の枝に散る南の砂浜に 炎をしたがえる鉄が くちづけるかぶとの峯を裂く ずるずる垂れる雨の別れに 立ち上ってくる木の 真の一系――― もえひろがる暖色の花びら 無限の空の 古代の響き忘れない 異変がおこりつつある 花器の雪にしずむ衣の波襞の乱れに飢えているウニ! 孤独の月の水酔いのくらしに浸透する あちらこちらでおどる枝の 虚構の峯の裂け目 なんじゃくな根元の四季に狂う充実があり 古代に散る 雨にずるずる垂れる別れの 洗い骨の水の恋情 南の砂浜のウニにふるえて 花びらの飢えの古代が響いて その余韻にひたる一本の枝の ほほえむ月の世界を割る

(改稿)


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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