春の電車

倉田良成



花盛りの下を電車は走る 子供らや 藁 ムラサキダイコンを載せて 彼方には春の火のたつ群落 ときに 鉄橋のカーブを越え 白い光がうずめる 陰のない街の広場を抜ける ギヤマンのなかの 夥しい交接と労苦の日々 花屋でヒヤシンスの首は斬られるが むしろ血は過去の染みでしかない 暗い駅に太陽がふりそそぐ 冬の悪い夢のなかで どんな禿頭を愛したのか 尖塔で鳴らされる鉦 単純な夜の構造に 透明な雨が何枚も襲い来ては去り 美しい斧の裂け目に烙印は証されるだろう レンギョウは割れ 蓮華は割れ 淡い空中に四月のかがみは散りつづけ 蒼いレールの没する彼方 水平線に静かな閃光が湧く 花盛りの下を去ってゆく影は誰? 銀の骨組みを慄わせて電車は疾走する

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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