向日葵

春日久男



                       これ はゆうがたのスープ皿である 湧いてはあふれだすつめ たい火がある みえない翼がとびだす草はらをうつして いる そそがれるゲル状になったカリフラワースープで ある   かえりみちはだんだん短くなって最後はゆきどまり 暦はまっしろ 足はもえる 腰は湿る よどんでいる魔 の胞子のためにテーブルクロスをひろげる 皿のなかで 煮たった波をふかくしずめる影のむかいに椅子を配置す る 弾んでいる眼のためにいろいろの皿をならべる そ して わすれられた彩色のためにナイフとフォークをと りだす こぼれる水をうけとめることができるだろう  星につきだした 材料のまんなかに蓋がある まどべに おどる皮膚は髪がはいった錆とおなじものである                       あなた ののみものは うすあかりがひやしている静止をのみこ んで おもいがけない酔いはみどりいろの空にとけてし まった 睡気の谷はひきのばされる デザートは毛ばだ つしろさのうえにある さびしいオリーブ油がとぶドラ ムをきかせる 双眼鏡は無限にうまれているようだ こ まかく砕いたコルクのような 孤独のモザイクをこおら せる駅がある       いまからみえるのは音をはこぶみち パー ティのはじめとおわりがいれかわる あおい衣裳がまっ ている くもりなく明日の角度をさししめす 耳 まわ りから軽くなってくる さらに軽くなって小脳につるさ れる物質ができる あかりにかえて虹のつくる結晶があ る 閨房ととびらをむすぶ棘の料理人 まいにちきまっ た献立はありません いらだちをさらすためにスプーン をふせる回析格子がおりだす声 しらずしらず性の動脈 がうごいたりとまったり こんやは硬質ガラスをつきぬ ける ふりだしにもどるかたおもいの半熟卵をのみほす すきとおったステンレス製の乳暈 あたらしい引力の強 弱に意味のながれはとまる 鉱物の時間へ いろあせて ゆく向日葵がある

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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