預かったもの
    諏訪 優さんに

辻仁成



あなたが亡くなったのを 知っていると思っていた誰かが それなりの顔をして語る時 僕の中でやっとあなたは死んだ ・ あなたから預かっていたものがあった 僕は返すことが出来ない(もう) ・ あれは死ぬための 笑顔 お別れの挨拶 僕を祝福しに来てくれたのに ありあまった語彙も 言葉にしなければただの意味 ・ 死んだ後でみんな神様になる ・ コクトーが死んだ後の コクトー展のあの 意味のない行列 に 消費されていくコクトーを 喜んだのは 誰か ・ 何時のときも 人力飛行機をブームにした人達は みんな青空を目指して漕ぎはじめる 馬鹿みたいに 書を捨てて 家出をして 自殺をして ギターをかきならし ペダルを踏んで 飽きたら 卒業 ・ (いったい何からの) ・ でも預かっていたものを 返せずにいる僕は どうしたらいいのか ・ 何時のときも許せなかった自分がいる ・ 晴れた日 流れていく雲に 少し気後れしながら そして やっと一片の詩を生む ・ 有無

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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