雨がはじまった
空からの電話に倒れて
雨の音を聞く
もうすぐ解けるそうだけれど
悲しいことを知るのだ
大きなムダをしてしまって雨の音が胸の板に滲みこんでくる
こういったことは 戦争や
事故でしか起こらないことなのに
ぼくは100年もふとんの上に倒れていた
雨が降り続けて
壮大なムダが身体に滲みこんでくるまで時間がある
*
Mからの電話に倒れて
火花のように頭が鳴る
本当は鳴らない
ぼくは冷静で ぼくの舌は鈍くて
ぼくはそのあと平気で
メシも食ったし 駅まで歩いても行った
自分が思ったことを殺そうとするときは
外(ほか)をみながらやるのだ
自分が生きてきたことの首を締めるときは
外(ほか)をみながらやる
駅で煙草を買った
これから何年間かを
何かを殺しながら生きるのだ
*
彼女は快活で「おかしかったのは89年の春から冬の間だけよ」と言ったりする
解けることはないのだ
人と繋がった〈もの〉は
ぼくには帰らない
ぼくのものにするために
坂道を降りていくようだと感じた孤独や
折れ曲がって ほそい路に入っていった孤独を考える
彼女の悲鳴のような声を考える
もうみつからない
ぐるぐると町を回って
目の前で〈ぼくたち〉が消えていくのを待っている
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