木の前の写真

布村浩一



ボーッと寝ざめた 窓のすきまから みどりのすきとおった葉っぱ 階段があるような気がする 息が葉とおなじで ダメージではない きのうというよりも 今までというよりも 覚えているものとおなじだ 空を意識する はい色の 空 瓦と壁板も描く 打ち消しつづけた 写真の跡が 目の前で大きくなった 焦げる あれはあんずだったんだろうか 空にはぼくのしたことが何ものこっていない 瓦の斜め 葉のよこ 軒先の手前 煙草を吸う内臓 応答がないので分からない あんずは答えないので分からない あれは全部無駄でした 途中から無意味になりました とも言ってこない あれはあんずではない ぼくのしたことは無駄ではない すべてが葉の呼吸のここから 離れると 絵のなかからひとつ抜ける ただそれだけ

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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