コピー

田中宏輔



 手をコピーする。左手をコピーして、右手を コピーする。腕をコピーする。左腕をコピーし て、右腕をコピーする。顔をコピーする。光を 見ないように、目をつむってコピーする。肩と 胸をコピーする。服を着たまま、コピー機の上 に胸をのせてスイッチを入れる。お腹をコピー する。コピー機の上にのっかってスイッチを入 れる。小便する犬のように、脚を上げてコピー する。左脚をコピーして、右脚をコピーする。 足をコピーする。コピー機の前で逆立ちして、 足の甲をコピーする。コピー機の上に片足をの せて、もう片足で蓋をしてスイッチを入れる。 そしてそれらをセロテープで貼りつける。ペラ ペラとした白黒のぼく。頭のところをもって垂 らしてみる。目をつむったぼくの顔。手をはな すと、ヘロヘロヘローとへたり込む。もう一度 手にもって垂らしてみる。でも、やっぱりペラ ペラとした白黒のぼく。窓を開けて、ぼくは、 ぼくのコピーを風に飛ばしてやった。  目を開けると、ぼくは風にのって飛んでた。 とっても軽くって、ヒラヒラヒラーと飛んでっ た。高層ビルの透き間をぬけて、ぼくは飛んで った。どんどん遠くに飛んでゆく。風にのって どんどん遠くに飛んでゆく。  ああ、ぼくはどこまで飛んでゆくんだろう。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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