大和世に舞う

沢孝子



食卓に頬杖ついて 湧き水の方言に沈んでいく 茶の間に再現されてくる異質な歴史の 暮らしにあるさびの形には馴染めない 習慣からの響き 器の言葉が出会う 杯盃にとぐろまく彼方の浜の古代の波立ちがあり 反大和となる優しい血縁の部落 潮風のリズムで歌って 万葉の恋文を焼く 大和化に消える愛の 灰にこもる図太い裸足が 蛇味線を弾いて渡り歩いた 城から城と覗いた亀裂の深さがあり 道のヒレがなしが詠んでいた句にもある 封じてきた月日の石の門 別れの儀式貼りつける衣の 武の作法にとまどうドレイの愛に抗いがあり 出口のない大きな月の夜の狂い 島にもえる炎の 荒れた髪をすく 大きな月の厚い本のページめくり 膨大になっていく砂糖黍 憧れの梅の木の引き潮にある 絞られた大和化の言葉は脆い 暮らしの器に壊れた異質な流れ 共通の差別の釜のどろどろに 倒れる黍の上昇思考を照らす 川の堀の滅びの屋根の満月 湯のヒダそうりょが詠んでいた句にもある 苦界のわびの飢えの方向の 天下分け目の時代 国の別れの骨を洗う儀式で 祖先返りして 大和世に舞う 海の悲しみの優しい血縁 花の作法へすりよるドレイの愛は捨てる 食卓に頬杖つく 出口のない方言のリズム 裸足の実感で 茶の間が出会う 反大和の島の満ち潮の 古代の炎をつつみこむ 万葉の恋文焼きてこもれ灰 天下分け目の大和世に舞う 裸足の実感で押す異質な歴史の掌 押されるわびの器の暮らしの掌 平伏する島の心が 大胆に毒蛇(ハブ)の柔皮ひらく 毒含む洞の言葉の影にまわる早さ お手上げの古代の湧き水に沈む茶の間は 掟の憎しみが倍加する反大和の衣を脱いで 食卓に頬杖つく ゴザに乱れる月の祈りで 万葉の恋文を焼く はっと射止める 夜這いの浜に到来してきた 神の足音 灰にこもる 島の心の潮風の柔らかさ 一瞬にして訪れる大和化の言葉の脆さに牙 さっと隠してしまう 道のヒレがなしが詠んでいた句にもある 出口のない部落の歌 方言のリズムが 呪文の踊りで祖先返りして 芸の作法をまねるドレイの海は抜ける 杯盃がかこいこむ ぶさいくな石垣の伝説 優しい血縁の暮らしの波立ちにくゆらくゆら ぶさいくな石垣の伝説 ガジュマルの木に神の衣がかかり 夢の島の歌と踊りの古代に 天女舞う空の涙の便り 食卓に頬杖つく 海の心は裂けて 梅の木に憧れた大和化 引き潮の茶の間は 朝の掟の罪に吊り下がり 海鳴りに痛んだ反大和 満ち潮の杯盃は 夜の上昇思考の黍の倒れにたじろぎ 異質な差別の共通の言葉が どろどろの釜に溶けて 古代の海の裂け目に透きとおる 湯のヒダそうりょが詠んでいた句にもある 苦界のさびの庭の波立ちに 暮らしの器から逃げた 天下分け目の時代 大和世に舞う方言のリズムが 滅びの浜へ旅立ち 春夏秋冬の四季の変化に荒れた 茶の作法をうのみにしたドレイの海は探る 象徴となる満月が照らす 洗い骨の儀式は出口なく 優しい血縁の部落へ旅をする 毒蛇(ハブ)の伝説に酔いしれて出会う 石垣にもえる炎の 国の別れの暗壕に死す

(改稿)


[ホームページ(清水)] [ホームページ(長尾)] [編集室/雑記帳]
エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.12目次] [前頁([組詩]顔)] [次頁(幼年論)]
mail: shimirin@kt.rim.or.jp error report: nyagao@longtail.co.jp