長尾高弘



流し台にみかんの皮が2つ 飛び散っている 彼女が2m先からそれを投げ 「今日は何もしないのに疲れた」 と言った みかんの皮が当たって洗剤が流し台に落ち ころんころんと乾いた音を立てた 横に立っていた私はびくっとして卑屈になり みかんの筋が皮から飛び出して流しの外に広がっていたのを 拾って流しに捨てた (筋なんか丁寧に取っていたのは私の方だ) みかんを食べたのは夕食後のこたつ 彼女が2つ持ってきて1つを私に差し出した 私が筋を取っている間に 彼女は食べ終わっていた (そのとき何を話していたんだっけ) 彼女が寝てから台所に水を飲みに行く 流し台にみかんの皮が2つ 飛び散ったまま残っている

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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