陽の堀をのがれ暗の扉にかくれるあなた

沢孝子



陽の堀を踏む足にこぼれる激しい水の言葉 石のようにこわばる壷の闇の記憶 表面の昭和のカレンダーに「神風」と「生神」という満ち潮の嵐がまきおこる 眼の水のかがやきで念じていた空へ 大和の剣が切り込む 袴の思想の移り変わりの 逃亡の形のよさを嫌悪する くりゃくりゃと舞う南のくらしの 歌を踊りの角にできたおできがあって 苦い歴史の水の肌の摩擦 諸関係のながれを 明治という近代の深い井戸を汲みとる目覚め 扇形にひろがる心の水の呪文の時間がうるむ

暗の扉の晴地がなしの古代の砂浜で 亀裂した愛の昭和のカレンダーにある嵐の夜を閉じてカナカナと泣く 体内にひびきわたってきた蛇皮線の ラブレターの満ち潮の呪文がやってくる あらゆる文字の骨をくだいた時間でかたりだす 巫女となった時代のくらし 角のおできにある亡びのリズムが目覚め 本土の袴の思想で泳いだ術の 逃亡の形のよさを嫌悪する 明治の近代の井戸底に立ち現れてきた座の琉球へと たぐりよせた巨大な帆の揺れ 飢えのくるいの海腹にこもっている害虫を吐く

大和の剣には骨をくだく文字の応戦 古代の砂浜の引き潮の精神が発酵する カナカナと泣く亀裂した列島の愛の祈りの 蛇皮線がひびく浮き草の体内のいたみ 民族の根が切られている不安と 巫女となった時代のドレイの自由な計算で 交わっていた陽の堀の 満月にある亡びのリズムの泳ぐ術 極限の春夏秋冬の死の断面に立ち現れてきた尼地ぶしょうへ 掘りおこす巨大な反乱の帆がある 恐くなっていく四季の渦暦の泡 泡 系幕が垂れ下がる組織の圧力の堀をのがれようともがいた害虫 グロテスクになる離別の海腹の恨みが 浜の小屋で嘔吐する 埋もれた掟のさまざまな飢えの現象を抱きしめる

琉球の座に今もゆがんでいく引き潮の精神の 地図に発酵する放浪の線路の浮き草の愛 民族の根が切れるところの雪の山で 自由なドレイの別れが計算した 南の砂利の一つ一つのふるえを確かめる 満月と交わる旅の終わりの死の断面 春夏秋冬に凝結する藩への反乱の 渦暦に浮かぶ武の泡の捕らえられない構造 グロテスクになって投じた鎌の浜の小屋には さまざまな掟へ焦る無知の判断がある 暗の扉にずーっとゆれつづけた夜這いの性器で 千年万年億年の大木の不安を抱きしめ 優しい神の警告を待つ 整えられてくる「神風」と「生神」を念じる空の 自然の器にある伝統の壷の闇の隙間をのぞいた もてあそばれてきたような苦い歴史の摩擦 水の肌の諸関係の感覚にある 作法の「気」にふれて扇形にひろがってくるくらしの殺意 信じることができるでしょうかと 異質な血を抜く夜の「呼吸」 石垣の扉にかくれたあなたの だらんとなる胸の乱れをなぞりつつ

(改稿)


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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