疲れた時計

長尾高弘



机の横の時計 ちょっと立派なたたずまいだが 秒針が八時と九時の間で痙攣している 文字盤の下の窓からは キラキラ光る玉のついた四枚の羽が 右に少し回っては左に少し回り 右に少し回っては左に少し回り まるで時を刻んでいるかのように見えるのだが 秒針は八時と九時の間で痙攣している 時計は最初からこうだったわけではない 正しい時間を指し示していた頃もあった (当たり前?) 狂っているのに気付いたのは何日か前のことである 時計がいつやる気をなくしたのか 気付いてやれなかったのが残念だ 時計はその後もときどき動く気になったことが あったらしい 何日かたって見ると別の時間を指し示している さらに何日かたって見るとまた別の時間を指し示している しかし 私が見ているときにはいつも 秒針が八時と九時の間で痙攣している (きっと一番辛い勾配なのだろう) 時計がいつやる気になるのか わからなくても残念ではない ともあれ 私はこの時計の今の状態が気に入っている まるで時を刻んでいるかのように見える四枚の羽 ちらりと覗くだけなら 秒針も八時と九時の間を動いているように見える そして私は時計が疲れていることを忘れる 時計が指し示している時間にいつまでも留まる

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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