普遍的祝福

駿河昌樹



幽か血の香りがする 嵐が近づいている すでに捲れあがり発火する書物 しずかにしかし次第にはやく 離陸を開始する草稿 炎となりゆくためにあった文字たち あれら直線曲線の簡潔な華から 深さへと燃え上がる青空 沼はなおも停滞の象徴であれ ことごとくそこを離れる雲らは 色をとうに落とし加速する 無効へと成就する預言書 やがて灰として舞い落ちてくる者らは皆 いまを十分に悶えゆがみ燃えゆけ 黒い炸裂をあまねく漲らせよ 巨人の堅牢な背骨もやわらかく煮込まれて 完璧であれ、断絶、分断、崩壊 廃墟さえ残らない清潔な白砂の土地に 存在も根拠も持たぬ宇宙よりの風が ひとり、次の幕の始まりを告げる

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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