いまここで火を焚く

駿河昌樹



起こることがなぜ 起こるか見えないから 見ようとして ぼーっとすわり続ける たっぷりと後退しなければ なにを生きたのかわからない 川の流ればかり見続けて やがて死んでいくとしても 見ることはなおも わたくしの消えた川岸を 見ている 無人の場所はないのだよね 「するとわたしは見られていたのだ! この世界のなかで、わたしは ひとりではない!」と ネルヴァルは言ったものだったが だから いまここで焚く火は 正しくは遍在の火 川岸は消えたわたくしへと 帰っていくのだね 哀しいのは真剣になり切ってないから でしょ 起こること、起こらないこと 考えないでいいから いまここで火を焚くのだよ いまここで火 だけは焚くのだよ

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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