にぎやかな場所

布村浩一



銀杏が隙間なく埋まっている 真っ黄色だ テニスコートがあって人たちが走っている 彼の表情はどんどん悪くなると思った 治療しているのに 顔から精彩がなくなっていく 「蛙の呼び出し方」という 図鑑を広げたまま彼は眠っているのか 目をつぶっている のか 銀杏の葉が風に揺れ この集会室は受験生のための 勉強部屋になっている 銀杏の葉は揺れ続け ぼくと図鑑 を広げた彼だけからペンを走らす音が聞こえない    *     * 明るい店に来る 明るい店はいい コーヒーとミートソースを注文した 薬を飲んだ この店は大きく明るい 朝食と昼食のあいだ みんな喋っている  席の半分は埋まっていて 本を読む人がいて  角のテーブルでノートを取る人がいる ぼくはアメリカン・コーヒーを注文した。 アメリカン・コーヒーと発音できる     *     * にぎやかな場所にやってきた 水を飲む 店の外には鉄の口 絵皿が無数にあり  中世の騎士の絵 槍を投げるエスキモーの絵  魚を捕る船乗りの絵 花を摘む女の絵  スキー靴を履いた子供の絵 鷲だ 金の枝の木 苺の形のケーキをたのんだ それとセイロン・ミルクティーを 店のすべてのテーブルで会話が続いている クリスマスから正月へ加速する  その加速に乗った人たちがテーブルの上で汗をかいている    *     * 声はあふれ あふれ 老人たちとすべり台  恋人と自転車 ここにもまったく葉のついていない枝がのびていて 木の枝の影が噴水のところまでのびる 日はあふれ  ぼくは日のあたるベンチで  眠りたい

[ホームページ(清水)] [ホームページ(長尾)] [編集室/雑記帳]
エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.18目次] [前頁(表紙)] [次頁(花々のための恋唄)]
mail: shimirin@kt.rim.or.jp error report: nyagao@longtail.co.jp