布村浩一



雨の音ならだいじょうぶなんだ どんな音でもだめになるけど 全体を包む 昔の記憶のずっと奥に奥にある バーァ強く雨が降りだして 屋根にぶつかる 壁にぶつかる 部屋じゅうが音にぶつかる 雨の音ならだいじょうぶ 他の音ならどんなものでもだめだけど 一日の終わりが区切られていたとき 山谷や 高田馬場に行ってたころ 雨が降るとホッとした 何もすることがなくなった  公園で 柵のパイプにもたれかかるだけだったが ぼくは仲間たちと笑っていた その雨 あの古い町で ぼくは傘をささなかった いつもそうしていた びしょぬれの薄い服 カミナリが鳴って阿佐ヶ谷のほそい路地で ずぶぬれになる その雨を 自然のように歩いた しみこんでくるのがわかった 子どもたちのかん声が聞こえる 走って帰るんだ アジサイのよこ ぼくはもう傘をさして歩くようになった どんな小さな雨でも空を見上げるようになった 海の記憶 空の記憶 この雨ならだいじょうぶ この雨ならだいじょうぶなんだ

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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