亀の背に乗って帰る。

田中宏輔



千人の仙人、殴り合う。 それが、最初のヴィジョン。 笑っちゃうだろ。 もちろん、「僧侶」のパロディさ。 有名な詩人たちが殴り合うのも面白い。 だれが、だれを殴るのか、興味があるし、 殴り方だって、みんな違うはず。 サッフォーなら、平手打ち、 コクトーだったら、へろへろパンチに違いない。 でも、ヘッセのゲンコツはキツイだろうな。 たとえ、イッパツでも。 パウンドだったら、 だれかれかまわず、殴るかもしれない。 (ロレンスは、殴られっぱなしだったりして。) 沈黙の猿が、私を運ぶ。 わたくしを山上に運んで行く。 オスカル・マツェラートは、21歳まで94センチだった。 ぼくのチンポコは、35歳になっても3センチだ。 (勃起したら、5センチにはなる。) カタサだったら、だれにも負けないけどね。 でも、それが、何の役に立つと言うんだろう。 毀れよ、と言えば、毀れる波頭。 ガムをくれるように簡単に言える。 そんな、きみが、うらやましい。 ハコベ、メヒシバ、オオアレチノギク。 いつか、小説を書こうとして 高野川で採取した植物たち。 花なしの緑いろ。 オオイヌノフグリもあったっけ。 手にとると、すっかり、砂になる 蟹の子ら。 あの夏の日のセミの声も、蜘蛛の巣に捕らえられた。 (風の日に、ちぎれ飛ぶ、ちぎれた蜘蛛の巣に) その日、ぼくのレモン・ティーに、何が起こったのか。 もちろん、何も起こらなかった。 起こるはずもない。 それが習慣というものだ。 あなたは、こぶしを振り上げたことがあるか? ぼくは、一度だって、こぶしを振り上げたことがない。 こぶしを振り上げたことのない人間に、 殴り合う権利などない。 海と、海の絵は、同じものだ。 祝福せよ! こころから祝福せよ! 真ん中に砂を置いて、 ハンカチを踏むと、海になる。 地雷を踏んだ戦車がうずくまる。 動かなくなった キャタピラの傍らに、  ――はぐれた波ひとつ。 そして、わたくしは? わたくしは 、、干からびて死んで行く ウミガメの子が見た 、夢だった。

(『陽の埋葬・先駆形』)


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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