清水鱗造
くねくね曲がる道を車は走る 小雨の湖畔 老女は小さく後部座席に たたずんでいる その 甘受して刻んできた日月 けっして憤怒はおもてに出ることはない ゆっくり動くワイパーを見る男 じつに硝煙に似た 硫黄のにおいは 老女のネガの映像を いくたびも焼き付ける わたしの世代から何度も 硝煙は 上がるだろう