人ごみにはぐれて

関富士子



あなたを見失って さよならを言えなかった あたしのさよならが あなたのさよならを 求めて さまよう よふけ なだらかな丘にひろがる ラベンダー色の街を さざめきがいつまでもやまない よごれた裏通りから なつかしい転調のしかたでとぎれとぎれに ラジオの古ぼけた歌が聴こえる さかさまにおちていくよさらさらのすなのさばく よっぱらいのじょうよくによるべなくさらされて ないてもなぜかしらよごとなみだなんかでないさ らんぼうなからさわぎラブソングのようなららら あなたはいつかこう言ったなんでもないさ だいじょぶだよ そうかな あたしはちょっと身震いしながら 指のさ くれをなめていたのだ ひどいま い道に行きくれて 人々はみん 笑って言う さあてレモン イムのお酒でその指を洗いなさい さがしものは見つからない よにもおかしな活劇風のオールナイトシアターの幕間にも なげきのマリアの青銅の胸の谷間にも ライラックの金色な蓬髪のしげみの間にも 〈さてこのぼくだがもう何代目のぼくなのか〉の中にも さよならはもう朝のつめたい光に目をふせて せなかにうすい影をのばして だらだら坂を海に向かって下りていったかもしれない ささやき よびかけ なが ら さざなみ よせてはかえし なが ら

*〈 〉は宮野一世「股眼鏡」より


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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