〈近況集〉

吉田裕
 新聞のコラムで次のような記事を読んだ。<まるで魔法にかけられたような冬だった。頭で何か考える前に、スケートが動く。氷の上で風になったような気分だった>(朝日新聞九七年三月三日朝刊のスポーツ欄)。これは一九八〇年、レークプラシッドでの第一三回冬季オリンピックで、一人で五個の金メダルをとったエリク・ハイデンの言葉である。彼は自分のいる場と一体と化している。
 同様の例をもう一つ。アンジェイ・ワイダは『灰とダイヤモンド』の撮影にはいる前に、次のような出来事があったと語っている。<チブルスキーがやってきて言うのです。「ああ、アンジェイ、なんだか知らないがとても気分がいいよ」。これを聞いて、この映画はうまくいくと確信しました。私の映画生活の中でもただ一度のことでした>。これもまた、俳優が映画という場と一体と化していることを示している。エリク・ハイデンと同じく、チブルスキーはあたかも魔法にかけられたように、風になったようにスクリーンを駆け抜けた。そのことは『灰とダイヤモンド』という作品があかし立ており、この場合ありがたいことに、私たちはそれを繰り返して見ることができる。僕はこのような出来事に興味を引かれる。

田中宏輔
あと、2つ、『陽の埋葬・先駆形』を書いたら、しばらく中断して新しいシリーズを展開していくつもりです。夏休みは、詩集『陽の埋葬』上梓の準備に忙しくなりそうです。これまで、本誌や、ユリイカ、現代詩手帖、BARAMADO、P&T 、ベルヴァーグ、オラクルなどに掲載された作品の中から、できる限り多くの作品を選び出して、収録したいと思っています。しかし予算との兼ね合いで、たくさんの作品を割愛しなければならないでしょう。4〜8ページの作品が大部分なので、今夏は、その作品の選択と構成に、ずいぶんと頭を悩まされることでしょう。4月から句会に参加してます。〈蟻ほどの大きさの人つぶしたし〉いまのところ自作で一番好きな句です。

倉田良成
このBTが出るころにはちょっと季節はずれとなりますが、このあいだ近所の公園に花見に行ってきました。花のしたでは近くの杉山神社の講中のじいさん・おじさん連やおかあさんたちがいて、周りの若い家族連れやカップルに「この囃子を知らなければ町内ではモグリだぞ」と、土地の獅子舞やそのカシラを用いた子を寝かしつけるシグサの舞いを披露してくれました。彼らはみんな酒でまっかな顔をして、さながらまつろわぬ地神の大宴会のようで、女房と二人、しばしコップ酒の手を止めて見惚れてしまったことでした。その間(昔風にいえば)ハントキほどのあいだの夢幻です。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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