節分 ――腐蝕画――

荒川みや子



 棘でかこまれている斜面。ずらっと裸木の林が 私の棲家に連なっている。風が骨のように鳴った。昼の月が正確に息を吐く。ココア色の地表と共に私達もそれに倣った。娘が輪遊びを始めようとしている。道なりにそって走ろうとしている。私は住民票を拾い集めながら 私の棲家へ入ってゆく。後ろから 鬼の影がついてきた。膝をみせて寒そうであった。たとえば ああでもなくこうでもなく流しの前で足をふく。ああでもこうでもなくフライパンをひっぱり出して豆を煎る。裏の庭で薪を割る男もいる。月はいつの間にか白い栓をゆるめた。ああでもこうでも角を出しながら豆であるらしい。娘が輪の中でぐるぐるまわっている。林の外だ。私の住民票は裸木の影に刷り込まれ 林は月を抱え笑っている。豆をやろうか。まわりの影は階段を上る度に濃くなってゆく。私は耳をあずけて夜の底へ足をはこんだ。踊り場に薪を積み上げる。輪の中へ月を入れよう。ああでもよく、こうでも悪く吐く息はここまでだ。豆を喰べてしまうと われわれは鬼のようなものである。角を撫でながらそこいらを相手に棲みつく。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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