関富士子



曇り空から聞こえてくる くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅじゅくじゅくじゅく 見上げるとくらくらする 雲のすぐ下あたりに浮かんでいる 小さな黒いなにか あれは誰のたましいでもない 生きているヒバリだ 息もつかずにに鳴いている ひいひいひいひいひいちっちちっちちっちぢぢぢぢぢぢぢぢぢ (ヒバリの歌はけっこう複雑でながい小節があり、  口説かれているような気がするときもあります) 道のかたわらはハス池で 葉のあいだからウテナが何本も伸びて わずかな風にも揺れている まるで天国みたいな景色だけど (啓示かなんかにうたれたいです) ここは繁殖期の地上だ どこかに巣がある わたしの帽子と卵までの距離がヒバリにはわかる ハスの葉形にひろがった縄張りの中で わたしは警告されている なにごとかを聞き分けようと耳を澄ます 真上の空の一点でホバリングして 恩寵のような声を降らせるもの ここから出て行け と言っているようなのだが 一歩も動けない

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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