頭脳に針が一本突き刺さる そこから記憶が 糸のように垂れ下がってくる 一本の樹だった時は 体の中を果汁が流れて 四方に張りめぐらした枝が 果実で重くなっていくのが 気持ち良かった 小さな池だった時は 腹の中で藻や魚があばれて くすぐったかった 晴れると 軽くなっていく体が ひりひりした 火山の底の溶岩だった時は なるべく体を小さくちぎって 遠くへ飛んでいこうとした 煙草のけむりだった時は 肺の中に一度結集して 勢いよく外へひろがっていくのが 裸のように自由だった 地面に落ちたばかりの光だった時は… そこで記憶はプツリと切れる 私は歩き始める 空から星が次々に降ってくる


(C) Copyright, 1995 NAGAO, Takahiro
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