病死


僕は脳の病気になった。病状はみるみるうちに悪化し、ついに末期症状があらわれて、僕の体はへその穴からめくれて裏返しになった。今まで空気にさらされていた頭や手足やペニスが体の中に閉じこめられ、内臓や血管や神経が寒々とした姿でとび出して、柔らかいあまり大きくない塊になった。骨はその時にバラバラにはずれてしまった。おかげで心臓などはふぐりのように垂れ下がってあわてて収縮した。肺は勝手に空気を吸い込んで、空気枕のようにふくれあがった。肝臓は削りやすくなったので、時々誰かが一部を失敬して焼鶏といっしょに食べているらしかった。神経はもろに空気にふれて敏感になったが、いかんせん脳がいかれているので、結局は何も感じなかった。頭といっしょに口がめりこんだので胃腸は暇になり、かわりになぜか腎臓が忙しくなった。せっせと小便を製造しては膀胱に送りこみ、膀胱はさらにペニスに送りこんだ。ところがペニスは体の中にめりこんでいるので、小便は体の中でたまっていった。体の中に閉じこめられた手足は他にすることもないので、性器ばかりいじくっていたから、しょっ中射精し、ために僕はいつも疲れていた。のどがかわくと、体の中にたまった小便と精液のまざった液を飲み、それがめぐりめぐってまた小便や精液になって体の中にたまった。外からとるものも無く、出てゆくものも無く、言わば自給自足になっていた。その間も脳は確実に悪化し、ついに粥のような重湯のような液になって体外に流れ出てしまった。それでもまだ、生き続けておれるのだから不思議だった。しかし、裏返しになってからちょうどまる三日たった時、とうとう心臓がばてて止まってしまった。つまりは死んでしまった。僕は自分が死んだのをはっきりと自覚して死んだ。


(C) Copyright, 1995 NAGAO, Takahiro
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