大きな息を一つ吐いて きみは 胸を押えて苦しそうにしていたが よく見ると 腹を抱えて笑っているのだった 隣りの国の大統領が来るとかで 歓迎したり 歓迎しなかったり する人々は忙しそうにしていたが きみは 蚊を追いかけるのに夢中で それどころではなかった 蚊を追うきみの眼は血走って からだより 一歩先を歩いていたが 今年の蚊は いつもより逃げ足が速いようだった それでも つかまえてしまえば一瞬のこと 掌についた血をながめて きみは よだれをたらしそうなほど 笑っていたが よく見ると きみにはいつだって 表情なんか何もないのだった つぶしても つぶしても 蚊はまた刺しに来る


(C) Copyright, 1995 NAGAO, Takahiro
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