14 センター北



 センター北という名前は、今までにも何度か出てきたが、私の家からもっとも近い鉄道の駅があるところである。停まるのは、横浜市営地下鉄3号線で、田園都市線のあざみ野や新幹線の新横浜、横浜市の中心である横浜、桜木町、関内、南の上大岡、西の戸塚といったところに出られる。
 この地下鉄が開通したのは、つい6年前のことである。引っ越してきたときにはまだなかった。開通したときにはまだ都内に通勤していたので、早速定期を地下鉄経由のものに変えた。新駅に向かう新しいバス路線もできたので、それまでの足だったたまプラーザ行き(鷺沼行きはまだなかった)がない時間には、地下鉄を利用すればアクセスがよくなる。帰りのバスの時間に合わせて仕事を切り上げて会社を出るような思いをしなくても済むぞ、と思ったのだが、都内との往復のためには、この新駅はちょっと遠回りなのだった。最初は子供みたいに新しい電車に乗るのも面白かったのだが、そのうちバスの鷺沼行きの路線も新設されて、地下鉄はまったく使わなくなってしまった。最寄り駅と言っても、バスに乗らなければ行けないところなのである。
 今、バスに乗らなければ行けないところと書いたが、もちろんそれは散歩を始める前の固定観念である。都内に通勤していた頃は、山田富士でさえ非常に遠いところだと思っていた。車で行けばほんの5分か10分の道のりだが、家から山田富士まで行く距離よりも山田富士からセンター北まで行く距離の方が長いこともわかっている。遠い山田富士よりもずっと遠いのだから歩く気をなくす。しかし、散歩を始めてから、勝田橋や牛久保の長徳寺でも歩いて行けることがわかった。だったら、センター北でも歩いていけないことはないだろう。
写真14-1

写真14-1 池の上から振り返る
 まずはすでに勝手のわかっている道を通って港北パークヒルズ、エステガーデンセンター北といったマンションの横にある池(写真10-17)のところまで行く。この池の横には不動谷(写真9-15)からセンター北に向かっていく車道(写真10-18)が通っており、車で何度も通っている。車と同じ道を歩くのはつまらないが、ほかに道を知らないのでしょうがない。この道には港北パークヒルズのところから入ることもできるが、池の反対側から階段を上って入ることもできる。ほんの少しだが近そうなので、そちらに回ってみる。階段の上からは池とマンションがよく見渡せた(写真14-1)。
写真14-2

写真14-2 請地交差点
 車では、このマンションのあたりから1、2回風景が変わってからセンター北に入るような気がしていたが、歩いてみるとすぐにセンター北の入口が見えてきた。入口というのは実際には変な話なのだが、車で走ると、佐江戸北山田線と交差する請地交差点(写真14-2)から先はセンター北という感じがするのである。しかし、牛久保の丘(写真12-9)に行ったときにもこの交差点からほんの数百メートルのところを通り過ぎているのだ(写真12-17)。近くて当然といえば当然である。妙に気張って出かけてきたが、センター北にはかくしてあっさり着いた。
 駅ができたときには、請地交差点から中山北山田線と交差する牛久保交差点までは信号がなく、建物もほとんどなかったのだが、ここ1、2年で随分店が増え、道も増えた。今では請地から牛久保までの間に2つも信号ができ、めいめい勝手に色が変わるので、通り抜けるのに妙に時間がかかる。しかし、名前のわからないそれらの道には車ではあまり入り込んだことがない。それらの道の1つにまずは入ってみよう。
写真14-3

写真14-3 工事中の阪急百貨店
 請地で左に曲がって佐江戸北山田線に入ると、50メートルほどで、池から歩いてきた道と平行して走る細い道があった。そこに入ってみる。細いとは言え車道なのだが、さすがに車の数がぐっと少ない。池からの道でも、中原街道などとは異なり、車道の横にしっかりした歩道がついている。それでも、車が始終走っている横を歩くのは気疲れする。車の少ない道にすぐに逃げ込めてまずはほっとした。そして、目の前に工事中の阪急百貨店が見えた(写真14-3)。家のベランダからも見える(写真1-1)観覧車が目の前にあった。
写真14-4

写真14-4 センター北駅
 阪急百貨店の手前の空地のところで左に曲がると、もうそこは駅である(写真14-4)。実は、市営地下鉄とは言いながら、このあたりでは地下鉄は地上を走っているところが多い。ニュータウン内に中川、センター北、センター南、仲町台と4つの駅があるが、中川を除けば駅はみな地上にある。センター北は、ただ地上に駅があるだけではなく、駅ビルさえ去年オープンした。駅の正面に出て右に曲がると、その「あいたい」というビルがある(写真14-5)。このビルには車で一度来たことがあるが、こちら側から見るのは初めてである。
写真14-5

写真14-5 あいたい
 駅ビルの端まで出てしまうと、行き止まりになっていて、どこかに行きたければ階段を下りていくしかない。下りたところ(写真14-6)には、タクシー乗場とバス乗場がある。センター南側に向かって駅ビルに沿って歩いていくと、さらに行き止まりになって、また階段を下りなければならない(写真14-7)。中川寄りからセンター南寄りに行くまでに2フロア分下りていくのである。実は、地下鉄に乗ると、中川寄りに走り出した途端に地下に入る。逆にセンター南寄りに走り出すと、高架になるのである。センター北とセンター南の間には早渕川が流れている。請地交差点は池から行っても、北山田交差点の方から行っても上り坂だった。電車自体は真横に走っているのに、地面の方がでこぼこしているので、地下に潜ったり高架になったりしているわけである。そう言えば、都内の地下鉄も、渋谷、四谷、茗荷谷と谷が着く駅で地上に出てくると吉増剛造さんが書いていたのを思い出す。
写真14-6

写真14-6 センター北駅ロータリー
 ここまで来ると、もうこれ以上下りる階段はない。駅がオープンしたときには、バスはこちらに入ってきていた。今のバス乗場、タクシー乗場などは、最近になってできたもので、センター北駅を盛んに利用していた頃は、ホームで電車を待っているとそのあたりで工事しているのが見えたものである。駅ビルができて、駅前広場が移ってしまったので、このあたりは逆に取り残された感じがする。センター北は、センター南と並んでニュータウンの中心部として開発されるという話だが、空地が目立つ。ニュータウン建設に本腰が入ったときに世間ではバブルが弾けて不景気が延々と続いているのだから、それも無理のないところだろう。
写真14-7

写真14-7 センター北駅元ロータリーに下りる階段
 センター南に向かって歩いていくと、やがて1本の道で行き止まりになる。この道は、車ではよく通る。車で出かけるときは、センター北はほとんどセンター南に行くための通過点でしかない。以前は不動谷(写真9-15)から請地(写真14-2)を通過して牛久保で左折するというシンプルな行き方をしていたが、先ほども書いたように信号が増えてなかなか通過できないので、請地で左折して次の信号で右折し、この道のところでさらに右折して中山北山田線に入るというややこしいことをしている。さて、ここからどこに行こうか。横浜生田線(写真9-7)に出て江田駅の方に少し歩いたところに見てみたい風景があるのだが、まずは反対側に少し歩いて横浜市歴史博物館というのに行ってみよう。
写真14-8

写真14-8 歴史博物館
 歴史博物館というのは4年前にオープンしたが、まだ入ったことがない。一応、外観の写真を撮っておくことにする(写真14-8)。やはりここに入ってしまったら、もうどこにも行けそうにない。それどころか、今日の仕事も終わらせられない。やっぱりやめて横浜生田線の方に行こうと向きを変えたときに、大塚・歳勝土遺跡という看板が目に入った。歩道橋で佐江戸北山田線を渡ったところにあるらしい。センター北のようにわかりきっていると思っていたところでも、やはり意外なものはあるのだなと、そちらに行くことにした。
写真14-9

写真14-9 歳勝土遺跡
 歩道橋を渡ると、そこが遺跡公園の入口になっていた。港北ニュータウン地域の遺跡のうつりかわりという大きな看板がある。看板の右から公園のなかに入っていくと、まずは歳勝土遺跡が目に入った(写真14-9)。大塚遺跡に住んでいた人たちの墓だそうである。方形周溝墓というのだそうで、読んで字のごとく、四角い回りに溝が掘ってある。
写真14-10

写真14-10 大塚遺跡
 ここから左に回ると、大塚遺跡がある。静岡の登呂遺跡のように、弥生式住居が復元して並べられている。弥生式住居の向こうには、阪急百貨店の観覧車が見える(写真14-10)。何やら奇妙な取り合わせだ。墓の方は柵があってなかには入れないようになっていたが、住居の方は柵はなかった。なかにもずんずん入っていけそうだったが、外から覗くだけで、さすがに入り込んでしまうのはちょっと気が引けた。
写真14-11

写真14-11 都筑民家園
 先に進んでもまた入口に戻ってしまうので、一度歳勝土の墓の方に戻ってからさらに奥に入っていくと、都筑民家園というのがあった(写真14-11)。これは、ぐっと時代が下ってつい30年ほど前まで実際に使われていた家である。ちょうど、牛久保の丘(写真12-9)あたりにあった長沢さんという家をここに移したものだという。馬小屋が併設されているのがよい。ここもなかに入れるようになっていたので、覗いてみようとしたら、落語かなんかをやっていて、客も2、30人入っていたので、すぐに出てきてしまった。
写真14-12

写真14-12 竹薮越しに早渕川沿いの家が見える
 建物の回りをぐるりと回って、さらに奥に行くと、お馴染みの竹薮があり、階段があった。ニュータウンではない早渕川沿いの家々が見える(写真14-12)。その階段をずんずん下りると、横浜生田線に出た。勝田方面を見ると、もうすぐ中原街道があって左に行けば丸子橋、右に行けば茅ヶ崎に出るというような表示板が出ている。いつの間にか、中川小学校入口も過ぎちゃったのか、と驚いて階段を上ってもう1度公園に戻った。それから公園に沿って建っているマンション(フォレストパーク四季彩の丘というらしい)からニュータウンに戻り、中川小学校に驚いたときと同じように当てずっぽうに歩いていたら、ねの石(写真10-21)のある夏みかん公園(写真10-20)のところに出てきた。ここからは道がわかるので、まっすぐ帰った。

参考地図

99/3/5


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