3 山田富士



 北山田にある山田富士に登るのは2度目である。もっとも、山田富士の麓にある薬局チェーンの自動販売機にはよくタバコを買いに行く。セブンイレブンへの往復では運動にならないので、気が向くとここまで足を延ばすのである。山田富士は、セブンイレブンの前の城山バス停からたまプラーザ行きバスに乗って2つ目の停留所でもある。たった2つだが、とても遠いという印象がある。初めてここを歩いたときにそう感じたのである。しかし、歩き慣れてみるとそうでもない。
写真3-1

写真3-1 山田富士に向かう遊歩道
 バスが通るということからもわかるように、バス通りである県道日吉元石川線(写真1-2)を歩いて行けば山田富士には行けるのだが、ここは歩道があるものの、車がうるさくて散歩向きではない。セブンイレブンに向かう階段を下りたところに、県道の旧道にあたる細くて曲がりくねった道があり、それに並行して遊歩道(写真3-1)が作られている。初めて登ったときにはここを通った。県道からほんの少し離れているだけなのに、静かで緑が多くて散歩向きである。この遊歩道は、ニュータウンの都市計画の一部に組み込まれていて、回りに芝生を敷き、花や木を植えてあるのだ。
写真3-2

写真3-2 山田富士の麓の公園
写真3-3

写真3-3 山田富士の前の池
 遊歩道から歩いていくと、山田富士の麓は公園(写真3-2)になっている。山田富士には桜の木が植えられており、花見シーズンにはこの公園に屋台の出店が出て、公園のあちこちに茣蓙を敷いて花見をする人たちがいる。初めて登りに来たときは、ちょうど桜が満開で、家からちょっと歩いてきただけなのに、いったいどんな観光地に来てしまったのだろうかと驚いたものである。しかし、冬の今日は、さすがにそのようなスタイルの人たちはいない。公園のなかには池(写真3-3)があり、暖かい季節には釣りをする人もいるのだが、こちらも人気はない。池のなかを覗き込むとかなり汚れており、ここで魚が釣れるとは信じられないような感じがする。
写真3-4

写真3-4 教育委員会の案内板
 山田富士は見ての通り、それほど高い山ではない。高くないのは、人工の山だからである。と言っても、小さな富士山を作ることがニュータウンの計画に含まれていたわけではない。江戸時代に作られたのである。市教育委員会が立てた案内板(写真3-4)にも書かれているが、江戸時代に流行した富士信仰にともなって作られたもので、実際に富士山に登れない人でも、ここを登れば同じ御利益があるとされている。このような人工の富士山は、神奈川県内では川崎市、横浜市北西部を中心にいくつもあったが、その多くは都市化によって失われたという。私は、県内の他の富士は知らないが、都内でいくつか見たことがある。確か山手線で御徒町から上野に向かうときに駅を出てすぐ、アメ横の上に聳え立っているものがあったはずだ。高校時代に通っていた練馬の江古田にも、境内に富士山が作ってある神社があった。
写真3-5

写真3-5 山田富士登山道
写真3-6

写真3-6 登山道から山頂を見上げる
 人工の山だと言っても、登山道がちゃんと用意されている。最初のうちは、桜の木の間をかいくぐっていくような感じだが(写真3-5)、5合目のあたりから先には何も植わっていない(写真3-6)。裸の山頂部があるので、近隣からも富士山とよく似た姿が見られるわけである。ここまで来ると、勾配もかなり急で、写真中央に簡単な足場が見えているが、初めて来たときにはここを登ろうとして手を使う羽目になった。右にそれていく登山道をそのまま素直に歩くと、手すりのついた階段が斜めに付いている。今日はそこを使うことにしてみたが、実際に階段を歩いてみると、私には少し高所恐怖症の気があるのでちょっと恐い感じがした。以前登ったときは、花見客が次から次へと登ったり下りたりしていたせいか、流れに乗っていれば何となく登れる感じだったが、今日は1人だから恐いのかもしれない。
写真3-7

写真3-7 山田富士の頂上
 山頂には火口が作ってある(写真3-7)。人工の富士山をいくつか麓から見たことはあったが、実際に登ったのはこの山田富士が初めてだったので、この火口を初めて見たときには驚いたものである。丸く石が敷き詰めてあるし、中央には何やら意味ありげな石が置いてある。もっとも、登山道とか丸く敷き詰めた石といったものが、江戸時代からのものかどうかはわからない。山田富士を作ったのはニュータウン計画の一部ではないが、山田富士を保存し、周囲を公園にするというのはニュータウン計画の一部である。公園化するに当たってそれらのものも整備したのかもしれない。
写真3-8

写真3-8 頂上からの景色
 低いとはいえ、山は山である。色々な建物が建つまでは、私の家からもよく見えたくらいで、さすがに山頂からの見晴らしはよい(写真3-8)。私の家がどれかまではわからないが(こちらから見えないのだから見えないのだろうと思うが)、まだ建物が建っていないこのあたりは、数年後には確実に風景が一変するはずだ。
写真3-9

写真3-9 トンネルの向こう側
写真3-10

写真3-10 空地
 小さな山に登ったくらいではポケットピカチュウの数字は増えない。帰りは少し遠回りして別の道を通ることにした。山田富士まで県道の旧道と平行して延びてきた遊歩道は、山田富士のところでこの道と分かれ、県道の下をくぐって(写真3-9)向こう側に続いている。ここを初めて通ってみることにした。右側には竹林の向こう側にかなり高層の(しかし少々野暮ったい)マンションが並んでいるが、右側は空地である。ずっと歩いていけばセンター北駅の近くに行くかもしれない。しかし、あまり遠くまで行ってしまうと帰って来るのが大変だ。しばらく歩くと、遊歩道自体が二股に分かれていた。右に行けば遠くに行き過ぎてしまうかもしれないので、左に曲がったら、空地(写真3-10)をぐるっと囲むような形であっという間に県道に戻ってしまった。ちょっと物足りなかったが、今日はそのまま帰ることにした。

参考地図: 山田富士はビッグヨーサンと池の間)

99/1/20


[フロントページ] [詩] [詩的日乗]

[目次] [写真索引] [サーチ]

[この回の写真一覧] [前頁(2 山田神社)] [次頁(4 のちめ不動)]

mailto: webmaster@longtail.co.jp