庭園のイメージにながれる溝川とくらい洞穴

沢孝子



庭園のイメージにかこまれる不安のようなもの 張りめぐらされた金網の少女 孤独なくらしの 秘密の心に流れる溝川とくらい洞穴 拆を打つ溝川の音があり 祖霊を祈る洞穴の声があり その不安の本質は見分けられない 子供が生まれ 孫が生まれ 平和なムードにやってくる 危機の空がある 汗つぶ 牛の息 煙 ヤットコ コンベヤー たれてくるさとうきびの思い出に 硬直してくる月 呼び寄せる空の舌がなぜまわしている象徴 噛みしめている 飢えの深さの緊張の 一メートル五十センチの幅をもつ 秘密の心をながれる溝川 庭園のイメージに 叩きはじめる拆の音の 照らしだすサーチライトの夜の頭脳が さそいだすハブのうねりで もぐりこむくらい洞穴 たれてくる金網の少女の思い出に 不可解なニジの組織があり 警告の雨に濡れる 恋文に引きずられる夕暮れの ぽき、ぽき、と骨をけずる耳の病 救急袋にしまいこんだ履歴をふりかえる ニジのぶしょうの組織の位置 庭園のイメージに救急袋の異様な目が濡れる 行けとむかっていった 秘密のくらい洞穴の 異質な空間のつぶやきがあり 祖霊の毛をかきわけて模索した 少女の金網の無知にしみる やくざな幼虫 踊りくるう形相 飢えの本 鉄板の性器 固い言葉の皮膚をむいて 捨ててきた祖霊を抱きよせる夜の物語 夕暮れになるとひきずる恋文の 沈黙の風の誘いが怖い 三LDKの団地の居間に 二千年の衣を脱ぐ決意があり 覗きこむ 秘密の心のくらい洞穴 三百本の竹が乱立してくる嵐のてざわりに 庭園のイメージへ 龍巻となりわきあがってくる祖霊の祈り 都会の孤独なウニの子育てがある 皮膚の刺の年月 閉じてくる海の言葉の 愚痴のどじょうがながれだす溝川 怒る茶碗の秘密の心には 金網の少女の長い道のりの旅 無知にかがやく星群の死霊の出会い 行けとむかっていった 異質な空間のつぶやきにある 皮膚の刺の都会の位置を確かめて 受身である茶碗の みもだえるどじょうの 置き去りにした海の大画面をひろげる ウニがなしへ添い寝する愛 拆をたたいているうす笑いのハブのうねりで 庭園のイメージへ 牢獄となる道のりの 脅迫観念の死霊の空を噛みしめる 冒険を試みて爆発となった根や草や土 庭園のイメージへ 背負う竹籠の逆らい 大地に戯れる神の糞を拾い集めた 金網の少女の掌には きらきらとひかる汗つぶ 転々とした労働の煙 牛の息にある無知 ヤットコがかきまわす空 コンベヤーに運んだ神の糞 石垣にたれるさとうきびの死があり 踏切に硬直した月の失恋があり 耳の病のつぎはぎだらけの言い訳 隠す履歴のじめじめした救急袋のかたくなさ やくざな幼虫がずりおちる 踊りくるう形相の摩擦がある 飢えの本でよこたわる樽腹の 居心地のよい鉄板の性器をひらく 愚痴のどじょうをなぜる風の 怒りの茶碗がだまりこむひだまり 古代からの抵抗のような長い道のりに 堪えきれない無知の空にかがやく星群 死霊がかけめぐる海鳴りを追うと 空を切断した法令がたれてくる 大地の戯れの神がみが振り落とす 金網の少女が背負う竹籠の海の言葉の亀裂は忘れない 校舎の威力の砂浜の根の草 ウニがなしが語る壷の骨の物語 くりゃくりゃ二千年の衣のてざわりにもえる ニジのぶしょうと別れる泉の石の恋文 がやがや不可解な組織の警告にわきたつ 庭園のイメージに 置き去りにした海の大画面をひろげ 冒険を試みる爆発 よこたわる樽腹の裸景をさらす ケンムン(悪霊)とつきあう優しさ ずうずうしく拆を叩く居心地の自由さ 祖霊の祈りの原点にうずくまる 壷の骨の極限にある 物語のくりゃくりゃ 泉の石の交尾にある 恋文のがやがや 興奮してくる ケンムンとつきあう優しさの 古代からの抵抗のような秘密の心 庭園のイメージに 一メートル五十センチの溝川のながれと三百本の竹が乱立してくる洞穴のくらさと

(改稿)


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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