近況集

田中宏輔
この夏、短篇小説を書きました。これから、ボチボチ書いていくつもりです。詩を書いているときには、そんなことは、めったにないのですが、小説を書いているときには、よく失神します。でも、そんなときの方が、文章に勢いがあって、あとで読み返してみても、心臓が止まりそうになるぐらい胸苦しいです。ううん。ぼくだって、ぼくだって、タイプ・ライターを前にして死んだトム・リーミーみたいに、ワープロに向かって死んじゃいたいやい。(アッちゃん、頭ぶつけてやろって、アハッ、ぼくの恋人が、のたまいました。ううん。イジワル。)

築山登美夫
最近同世代の友人たちとひさしぶりに呑む機会がありましたが、ふけこむにはまだ早い40代半ばだというのに、時代にたいする無関心さと感度の鈍さには、怒りをとおりこして、ほとほと感心してしまいました。この棲みにくい日本で生きぬくための防御機制の成果、なのでしょうか。こんなものに巻きこまれてなるものか、と感じざるをえませんでしたが、ほんとうはすでに巻きこまれていると観念したほうがいいのでしょう。オウム事件にたいする反応で大きな岐路に立たされている、と前回書きましたが、早速『樹が陣営』と『BIDS』の最新号でスリリングな議論が展開されています。そして尖鋭な対立点を形成しています。刮目しながら技癢を感じている、といったところでしょうか。今回の「交響楽」は私としては非常に手応えのあった作品です。前回、前々回と結果的には三部作ということになりました。     (96/10)

長尾高弘
前号でインターネットで、『イギリス観光旅行』という詩集をホームページで公開したと書きましたが、昧爽社から本として出版していただきました。原稿がすでに存在していたとは言え、1ヶ月足らずで本になってしまったのは、オドロキです。定価は800円(送料込み)でISBN4-943953-06-9 C0092です。よろしくお願いします。

吉田裕
三〇年代のバタイユの政治と社会と宗教が混じり合った試行錯誤の姿を明らかにすることに取りかかります。準備を何とか終えて、本来のテーマと考えてきたものをようやく始められるようになったということです。おまえの書くものはわからない、とよく文句を言われます。本人はわかりやすく書いているつもりでも、またそう努める気持ちも失ってはいないけれど、やっぱり対象が難しいのです。読んでくださるだけで大変ありがたいです。

倉田良成
今号の作品にもあるとおり、ローマへ行ってきました。海外旅行はおろか、飛行機に乗るのも初めてという生けるシーラカンス的な身にとっては、驚きと興奮の連続でした。永遠の都がローマであるというのも、「ナポリを見て死ね」という意味も(ちなみにこれはカプリを見て死ね、ということらしい)、その土地へ行って初めて判るものだということを沁みて思い知らされました。たんに行って見てきました、というのではなく、この驚きと体感を作品に反映させることができたら、と思います。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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