ミノトロマキー

藤林靖晃



 夏。沸騰する汗の塊の中で我々は眠る。何を考えているのだね、君たち。声だけがひびいてくる。夢。すべては夢。現実より重い……。我々は夢を噛み殺す。声を追う。めくるめくような速さ。速度は次第に激しくなり、躯は瓦解する。強い陽が四肢を焼く。殺す? 何を? 三人目の自分をだ。待ってくれ、その前に。その前に、何? 君は君自身を何千回と殺しただろう。否。私は何もしなかった。そうだ。一体私は何をしたのだろう? 内臓のかすかな破裂音が聞こえる。私は既に私を飛び立った。む。
 秋。彼も死んだね。そうだ、彼もだ。彼も死んだのだろう。そうだ彼もだ。我々の中の同胞は一体何人? …数えきれない死。君、君は死なないでくれ。大丈夫だ。俺は死なない。それどころか、俺は歓びに満ち満ちている。なぜ? 俺には俺が居る。え? 六人目の俺に君と話すようにすすめよう。俺は又旅に出る。ぐ。
 冬。広がる雪の中で無数の人々が騒いでいる。此処は至上の地だ。さあ、何も考えずに冬眠に入りたまえ。夢をたっぷりと食べたまえ。
何処へも行かずとも良い。何をしなくてもいい。何でもしたまえ。ふふふ。しかし彼等が。彼等? 関係が。それがどうしたというのだ。関係が燃える。燃える。ふ。
 春。一切合財が蠢きだして、風景は生き生きと音を立て、風が、雨が、雲が、躯の中をめぐり始め、臓腑を揺すり、我々はまだ居るのだね、誰かが呟き、声のかたまりが鳴り始め、はじまりはひそかに、やがて高まり、地を揺すり、水と岩と山をくぐりぬけて、われわれは飛翔し、まわり、裸の躯に水を浴び、飲み、食べ、これでいいのだと、誰かが笑い、笑いの渦が鳴りひびく。ど。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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