五月のための七つの連

倉田良成



仄かに触ることのできる肢体 春は密接に私たちを黙らせる みずからを送るために たぶんひとつの湖は必要だ 日の傾きは無意味で美しい 草の匂いをはびこらす私たちは アヤメを連れて他人の庭に侵入し 旬日は酔うことができる 火に荘厳される堂 濃密な雨のなかで 音もなくただ 一軒の家が燃えていた 夢のうちそとで私たちは常に旅人だ…… だが百年はたやすく過ぎる みしらぬ薹のうえでしきりに閃く花のように 人は死に けれど死に絶えることがない 数多の杯とともに私たちは退屈な「今」を空にする 鳥たちの囀りが世界に満ちる暁の 絡み合う黒い枝の交錯にきらめく空の青 いっせいにひるがえる葉の群れは血の色に濡れふるえ はつなつの私たちを残酷にことほぐ 堪えることができるのだろうか つぎつぎに火花を開く架空の季節の下で 私たちは立ちどまる 無限に明るくなってゆく内面の (透視画の奥はつめたい) ツキクサの水の跡を追い 私たちの消滅ののちに辿る地図 山を出ることはできない? 夏のはげしいよろこびを湛えた海と出遇うまで

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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