あこがれ

関富士子



よーい。 はれやかに少女は叫ぶ ピストルを空に向けて まっすぐな腕 片手の指は耳の穴に            今まで気づかなかったが            あれはわたしがほんとうに            したかったこと            できるとも思わなかったが ぱーん。 前列がいっせいに走る 火薬の匂い 砂ぼこりを浴びて 少女はほほえむ            いつもうつむいて走っていた            何も見たくなかった            わきばらの痛み            となりの子のひじがあたる            コーナーですべる            のどに砂がはりつく 少女の足元で 少年が火薬を詰める 片ひざを立て 沈着にすばやく 少女に手渡す            かばんの中に            おもちゃのピストルを隠していた            死ねるとは思わなかったが            いつか男の前で            自分の胸に当てるつもりでいた よーい。 くりかえし少女は叫ぶ 耳たぶをばら色にして つまさきをそろえ 少し背伸びして

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
[No.11目次] [前頁(詩――本人校閲)] [次頁(遺言)]
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