城と洞の扉に炎がもえる

沢孝子



城の扉をひらいて面接する
ひざまずく封筒が ケラケラ笑う
堀からはとぎすまされた武の掛け声がひびいて
伝統という流れにゆがんでいく胸の文字 毒蛇(ハブ)の舌なめずりで
不可解な位の椅子へ 鎧となる言葉の形があるから 驚いている封筒 胸中の洞はとじて
美しかった あの空の死の謎を解きたい 城の周りをうろうろしてやっと辿りついた面接なのだ
なぜ受けごたえは呪文になるのか 法螺吹きの情念の舌 その動きにある卑屈さが恥ずかしい
奥のカーテンを気にする あのひびきは 機械なのか 馬のひづめなのか 屍のうめきなのか
了解できないで さまざまな動きにはらはらするだけ 城のなかへ入る資格なしという答えが返ってくる
それは毒蛇(ハブ)のうねりは館からはみだす恐れがあり うろこのエロチシズムはカーテンの揺れにある襞にはそぐわない
そのとき天に梅の花びらひらいて 鉄皇ぶしょうの恋にもえる便箋の文字のしたたりにふるいたつ
戦争で詰め込んだたくさんの頭脳の星 突っ込んできたのは鋭い梅の木の先 珊瑚の割れ目に花びらの傷口が浮く
戦後の城の扉は軽くなった 喜んで機械の街の奥へ 梅の屋敷に入れば椅子の人狩り 頭脳を打つ鎧は痛い その恐怖があり
今 胸ひらいて沖縄戦での 毒蛇(ハブ)の踊りを館で披露したいと はなやかな舞台で呪文をとなえているけれど
やはり襲ってくる とぎすまされた武の掛け声が 伝統という堀の流れに 傷口のひびきが……
不可解な天を梅の木がひらく 鉄皇ぶしょうの恋の優しさに 鎧の貌にある刀の先がだぶり 破れている胸中の傷口 ゆがむ文字の花びら
管理された城の扉をひらいて面接にいく老齢があり 階段をのぼりつめている執念には
ケラケラ笑う封筒の変身してきた月日があり むなしい恋の奥にある梅の屋敷の人狩りの恐怖へ
たくさんの星の頭脳がもえている ひざまずく扉に炎の花びら

洞の扉をとじて逃避していた
こわれた風呂敷が ナワナワ這う
溝からはそぎおとしてくる華の水の輪がせまって
夜の器の真軸にみだれる頭の言葉 毒蛇(ハブ)の強がる牙で
迷路のような売る格子へ 浮き世にある文字の線にみせられて 後ろ暗くなる風呂敷 頭脳の扉をひらいて
すくいだった あの街のむなしい恋に近づきたい 洞の闇にあるねばねばをすくいあげ 自由のためにいそいだ逃避なのだ
それが性のうねりになり 南の踊りへとつながっていく この牙の尖りを確かめたのが嬉しい
岩底のシイーツに濡れていた あのしたたりは 楽器なのか 烏のなきごえなのか 交美のよろこびなのか
のめり込めないという淵には 他界の儀式に参加できない根元の相違があって苦悩はつづく
それは毒蛇(ハブ)のうずまきでは雪景色の刀の血に染まれない そのグロテスクさはあまりにも陽気すぎる 祖霊にある明るさ
そのとき砂に珊瑚の花びらとじて 黍ユタがなしの死者が語りだしている そのふるえる樽の家人の言葉のひびきへとしずみこむ
古代を覗いた澄みわたる胸中の月 離別の闇がかたる祖霊の珊瑚に海の瞳 梅の亀裂の花びらに悪霊がたつ
現代の洞の扉は壊れ 幸せつかんだ座も 岩底となる珊瑚の夜に沈んでいく滅び 胸中にさまよう浮き世の激流 その怒りがあり
今 頭をとじて薩摩の支配へ毒蛇(ハブ)の交尾が笑う 家人の人身売買という極限の暮らしを思いつつ
やはり格子はあるのだ そぎおとしてくる華の切り口 藩という溝深くからの悪霊のしたたりが……
無意識の砂に珊瑚の海がとじている 黍ユタがなしの死者の狂いは 浮き世の恋の狂暴と重なり 尖りだすだす脳裏の激流 みだれる言葉の花びら
消滅する洞の扉をとじて逃避する娘が走り 階段をおりつづけている孤独には
ナワナワと這う風呂敷の夜這いの抜け道があり 淋しい死者と語る岩底の珊瑚の夜にある滅びの怒りへ
こわれた扉の炎の花びら 澄みわたる月の胸中にもえている

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