金色の場所

倉田良成



鮮烈な出来事のように 路面には水が撒かれ あたらしい光にふるえている あの キンモクセイのおおきな繁みの陰は 聖なる場所だ (私だけのための) 秋のベランダにたわわに実る沈黙 子供たちのための聖なる場所 階段のしたで 姉が おさないポーズをとる弟にむかって シャッターを押す すばやく切りとられる 深い青空 記憶を閉じこめた紙のうちで 夏休みは終わらない そのように 「扉」のむこうに沸いている祝祭は永遠だ 人間のものではない明るさをはなつ 坂のかなたに陥没した町へ ダシはうごく 願わしい 透明な存在を載せて たとえば一本の木である その内部の罅割れは厳粛だ その黄落はガソリンの匂いをあげる まだ林は無垢の彩色 いっせいに火がめざめる刻限を待って 細い道で青年が懐疑する (世界はまだ 暗い卵にすぎないのだろうか?) 浮浪者が伽藍のおくに消えてゆく いっしゅんの白いやいばのように 「その人」の顔を見たと思った 森の 誰も入れない輪のなかの 聖なる殺害 きょう二階のゴルトムントが説く ホサナ あの かがやくヤドリ木の金の枝のあいだから あたらしいよろこびの時が暴力のように訪れると

(連作〈SEPTEMBER VOICE〉より)


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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