微風が止む前に
言っておきたいことがある
あのマネキンは
さんざん喋って
それでマネキンになったこと
ショーウインドーの前で
しょうもない囁きが
たくさん呟かれて
それで飽きちゃったんだ
*
屋上庭園には
つぶれた書物があり
それがどろどろ溶けて
排水溝を詰まらせた
きちんと整理された書斎の書物の横の
排水溝をね
*
花粉 花粉 花粉
密かな粉
花の奥を抉って
路地を通じさせて
地蔵なんか置いて
ミニ植物園を造って
実験するのは気持ちいいね
*
それだけだね気持ちいいのは
でもね
全体的に腐食することってある
いつのまにか誰にでもやってくるんだ
酸がざんざん降っていることなんか
肌に艶があるうちには
気づかないだろう
誰も
*
ようするに
路地を通っているときに
これは花弁の中だなんて
気持ちいい感じがさ
それ自体が
机の前の鉢植えのミルクブッシュと同じってこと
*
〈お知らせ〉
ぼくはきみが好きです
*
〈お知らせ〉
調子いいときはね
頭の
*
やあ
草取りだ 草取りだ
ツツジがこんなに雑草に
埋もれてるじゃないか
二階から落とした
ハーブが芽をだして
繁茂している
だけど
ごく単純な
ハーブ
*
ふとシャベルをとめて
こんなとこにいるのかとか
汗かいているのかとか
腐食の速度がわからなくて
深呼吸して太陽をみたりして
それが背後から見れば
直立した骨なわけ
*
陰陽まじわって
矢印が前むいて
人いきれが
そのまま
林の
フィトンチッドだということはね
わかっているよ
*
〈お知らせ〉
さりげない人生こそきみの求めているものでしょう
*
〈お知らせ〉
糞くらえ!
*
で、ウチの犬はわざわざ猫の
糞を食べるの
糞食べるのなんか普通だよ
自分のおしっこなめて
「からいー」なんて
それくらいは
今日のお料理だよ
*
どうしても娼婦の顔が
思い出せないってことがある
堕ち込んで
でもビジネスライクに
日々の草を刈って
よすがにしている
のはね
草取りをする
ぼくが娼婦の証拠なの
*
きみのがいくぶん
傾いでいるのかな
ぼくの船より
サンドスクリーンを
どんどんかけていけば
傾いでいるほうがきれいだよ
*
島の掘建て小屋から
生まれたきみの
肌に染み付いた
しきたりが
ハンバーグステーキを注文させるのは
当然といえば当然だ
*
〈警告〉
肛門に飴玉を入れるのはやめましょう
*
〈警告〉
きみは痔疾なんだ!
*
というわけで
硬化療法というのをやった
先の曲がった注射器を肛門から入れて
硬化剤を注入する
でも血がたまに漏れるのを
無理やり止めることはないじゃないか
*
煙草すってると
白い服を着た処女がたくさん
雲のあいだを
蝋燭をもって歩いているんだよ
なんだかぼくは
哀しくなって
泣いてしまったりする
*
あれはぼくの一部
ぼくの葬列のね
でも背後から見れば
ゼリーのなかの甘い果実
*
だから湿ったことばかり
言ってられない
そう言うまに
あの処女たちは同じ歩調で
どんどん歩いているから
*
雲の下
川原を歩いていると
草木の幽霊がいます
という立て札がある
そういえば
流れに向かって葦の半分くらいは白く枯れている
*
おばけが飛んでいる
葦のあいだに
暮れ方の虫を捕える
コウモリと親しそうに
*
釣人の竿が
昔への通路みたいに
弓になっている
煙草の先の火の玉を
草履でもみ消す
*
日の隔たりだけが
あるような
白爪草だけがぽつぽつと
続いているような
通路
*
石を投げると
鉄橋のほうに
水面を飛び石になって跳ね
茶色い流れに沈んでいく
*
向こう岸でちろちろ燃えているのは
なんだろうね
地面を一カ所這うように
光がまとまって
*
オペラグラスの向こうに
裸のマネキンが立っているのが
見える
古い書類の束が
文字とともに
はらはらと崩れている
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