茶壷のなかの風

沢孝子



いつも南からやってくる 蛇皮線には 敷居に立つ つぶやきがあり 根となった 足となった 露地の やわらかい 夢の木 茶の葉つむ言葉の交わりに ひかった枝葉の他者の眼 そのざわめきの一瞬の風をそらすとき 猿のおどる足 藻のゆれる根 あわててかくす 上昇した夢の木の時代の 赤い水 茶の葉つむ言葉の交わりに わいて 狂う土びん はげしい湯の感情の 敷居のつぶやきこぼれ 蛇皮線を弾く 南の愛があり 一揆をおもって ゆれる藻の根かきわけ おどる猿の足のかたりで 壷の街をひらく 不浄となった愛のながれの 南からの引き潮 古代からの虹のかけ橋で 吊り木がなしが うたった島歌は 夢の木のシンボルをしずめるため 茶壷のなかの風にふれるだろう きれた海の孤島 ちぎれた空の地平線 幼い日の 紋章のかたちに いたんだ波の縁側 つぶやく雲の愛がある きれた藻の海 ちぎれた猿の空 幼いまなざしで 上昇した 夢の木の時代 茶の葉つむ言葉の交わりに 都市のさびにそまった夕ぐれがある 褐色の鉄びんがもえてきて したっていた一揆 壷の街の空の 不浄のながれとなった愛の龍巻がある はてしない古代の 藻の海がきれた時限へ ながれさった蛇皮線の 猿の空がちぎれた驟雨へ 縁側のつぶやきは ぬれなかったか 古代からの虹のかけ橋で 散る木ぶしょうが ラブレターを差し入れてくれたとき こわれた茶壷のなかの 風のシンボルが まなことなってせまってきた 一瞬にして こわれた岩 無の海に かくした爪 荒涼とした 風景の波立ちに 裸景をさらした 途中下車の愛がある こわれた藻の岩 かくした猿の爪 その手ざわりで 忘れて行った道に のぼってくる満月 にぎらなかったか うたう車窓のながれ 土びんの褐色で 一揆の伝説をくぐりぬける 壷の街の風 不浄のながれとなった愛の海道に かたりかけてきた 一本の夢の木の 茶の葉つむ言葉の交わりに 古代の蛇皮線をひけ こわれた藻の岩で 駅駅の扉をひらけ  かくした猿の爪で ひび割れる車輪のこころの 途中下車の座にすわる にげていく泉の 虹のむいしきに 顔をあらって ふりむいてくる乙女 格闘! 壷の街の敷居で 吊り木がなしは 赤子のように だきすくめられてしまった そんなはずはない 壷の空の縁側で 散る木ぶしょうが 大きくなって かぶさってきた そんなはずはない 壷の風の駅駅に ふりむいてくる乙女 どれい地獄が 立ちはだかってきた そんなはずはない くたくたになった蛇皮線の街 敷居のつぶやきを 聞かなかったか おどる猿の足 ゆれる藻の根 上昇した 夢の木の時代の 不浄のながれとなった愛の引き潮がある ねむりつづける紋章のかたちの空 縁側の驟雨に ぬれなかったか ちぎれる猿の空 きれる藻の海 上昇した 夢の木の時代の 不浄のながれとなった愛の龍巻がある 茶壷のなかの 風のシンボルにふるえる 虹の泉のかけ橋に あたりいちめん 駅駅の一揆によみがえる かくれる猿の爪 こわれる藻の岩 不浄のながれとなった愛の海道をくぐる どれい地獄の島歌に 花のにおいがみちてきた

(改稿)


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