Booby Trap 通信  No. 6

禁忌と禁忌の侵犯に人間をみる
聖女たち――バタイユの遺稿から/著訳者・吉田裕/書肆山田/定価2000円(本体1942円)

【目次】
●「聖ナル神」遺稿 ジョルジュ・バタイユ/吉田裕訳
「エロチシスムに関する逆説」の草稿
聖女
シャルロット・ダンジェルヴィル
●淫蕩と言語と――「聖ナル神」をめぐって―― 吉田裕
(書店でお買い求めください)
歴史の「中心」をめぐって――友人への9通の手紙/私家版(残部僅少)/無料
【関連資料】吉田裕『歴史の「中心」をめぐって』(非売品)は一九八九年から九一年までの、詩を書いている築山登美夫への手紙を中心に編まれている。八九年の春から一年間フランスにいて、ルーマニアのことなどが日本への情報とは違ったかたちで受けとめられたことなど、もちろん文学をやっている者が状況とどんなふうにかかわっていくか、という根底的な問題ももどかしく感じながらも書かれている。この本のもうひとつの中心はジュネットのセミネールで直接講義を受けた体験と、ジュネットの思想の解析である。ジュネットはタイトル、献辞、序言、あとがき、インタヴュー、自己解説、回想などの周辺のテキストをパラ・テキストという概念にまとめ、テキスト論を展開する。手紙の形式からいっても量的にも、ジュネットの考え方をめぐった随想というかたちであり、著者の関心はバタイユに移っていくところで手紙は終わっている。(中略)
 吉田の本を読んでいてもうひとつ感じたのは、西洋やその他の国の思想の異化ということが身近に自然になってきたということである。わが家にも昨年アメリカ人の少年が二カ月ほど、ごく自然に生活していった。ヘヴィメタルバンド・メガデスのマーティ・フリードマンのアルバム『憧憬』の〈Realm Of The Senses〉という曲の演歌のメロディラインの異化作用。日本の時間的な隔たりによる異化ならば寺山修司作高取英演出『盲人書簡』。(後略)(「週刊読書人」1993・3・15号〈さまざまな異化作用〉・清水鱗造)
(著者に直接注文してください。著者住所:〒168杉並区高井戸西2-7-29)
【近況】『死者』はバタイユのいちばんすごい作品だと思っているが、今の日本語訳の元になっているポヴェール社の版は、ガリマールの全集によれば最終的なかたちではないとのことなので、この全集のかたちで新しく訳してみたい。またこの作品についてもバタイユは、続編を考えていたようで、それが『ジュリー』という題で草稿で残っている。これも併せて訳して(これはほぼ完了した)、これらをどう読めるか試してみたい。ひとつの作家をあまり長くやる方ではなく、バタイユもせいぜい3、4年と思っていたが、どうやら長引きそうな気配である。

Pastiche/田中宏輔/花神社/定価2400円(品切れ)
いくら あなたをひきよせようとしても
あなたは 水面に浮かぶ果実のように
わたしのほうには ちっとも戻ってはこなかったわ
むしろ かたをすかして 遠く
さらに遠くへと あなたは はなれていった

もいだのは わたし
水面になげつけたのも わたしだけれど
(〈水面に浮かぶ果実のように〉)
【プロフィール】1961年、京都生まれ。現在、同志社国際高校数学科講師。『Pastiche』(1993.5刊)は処女詩集。「ポパイ」2.10号47ページに顔写真とインタビューが載っています。同性愛を織り込んだ詩も書く。
(著者住所:〒606 京都市左京区下鴨西本町36-1-2A号)
【近況】一人の青年と出会いました。そして、出会った次の日に、彼は仕事の都合で、遠い所に行きました。でも、まだ、キスしかしていないのに、一日しかいっしょに過ごしていないのに、彼のことを考えると、胸がいっぱいになります。いま、ぼくはこんなことを思っています。愛することはたやすい。愛されることもたやすい。信じることさえできれば、……と。

新刊!
『蚤の心臓』/関富士子/思潮社/定価2600円(書店でお買い求め下さい)

棚の下の暗がりをすばやく歩く者は
猿のような後ろ姿だが
首だけあおむけて
蜂をほおにとまらせたり
幹の蟻をこすり落としたり
蔓や葉は光の方へ伸びるが
房がながながと垂れるので
日暮らし膝でいざり歩く
下草に濡れてふるえながら
てのひらで房の重みをはかっている
房は熟して張りつめ
汁がその手にしたたるだけで発酵する
びしょぬれで飲みつづける毎日のあと
枯れ落ちようやく明るんだ棚の下で
酔いざめのくしゃみをする
〈時をめぐる冒険〉より〈葡萄畑〉
【プロフィール】1950年、福島県生まれ。双子座のB型。編集業。特技は早寝早起き。趣味は飼育。詩集『螺旋の周辺』(1977年)、『飼育記』(1991年絶版)。現住所〒351朝霞市泉水2-7-34-101
【近況】トルストイの民話を読んでいたら、汚れた雑巾でテーブルをふく主婦の教訓(神の名づけ子)があったが、心の迷いを縞模様のテーブルにたとえるのは妙に実感がある。

長尾高弘
【近況】詩というやつは、クスリのようなもので、次第に強いものでないと効かなくなってくるようです。詩を再開してからそろそろ1年近くなるのですが、去年なら満足できたものでも、今年は満足できません。最近「ロシアアヴァンギャルド6:フォルマリズム」(国書刊行会)という本を手に入れたのですが、巻頭から、言葉(そして状況や作品も)は時間とともに形式(音とイメージ)を奪われ、化石化し、詩から散文への変遷をたどるといった内容の文章にぶつかり、おおと声を上げそうになりました。満足はいつまでも続かないのです。
【プロフィール】1960年4月6日生。(住所:〒223横浜市港北区東山田3-26-16)

沢孝子
(住所:〒560豊中市東豊中町5-2-106-504山形方)

白蟻電車/清水鱗造/十一月舎/定価1500円(送料込み)
穢れを通して生きていることの意味を探るというのはかなり勇気の要ることだ。清水鱗造はいまそれを敢えてやろうとしている。――鈴木志郎康(帯文より)
蟻の文字がぎっしり詰まった丸まった新聞紙が
ボッと発火する
吉凶吉凶吉凶…と燃える
家系を満たす甘い雪崩…と燃えている
凌辱するものは味方でも撃て…と燃える
菊が硫酸に浮いている
声がただれてくる
逆円錐の渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
渦(白眼)
百平方メートルの皮膚がいっせいに鳥肌立つ
(〈渦群〉より)
【近況】木の枝のように、いろいろ考えることややることが湧いてきます。もちろんその枝のひとつにBooby Trapがあって、湧いてくることのリズムをつくっていくのですが、さらにここからまた太い枝にしていきたいと思ってます。文庫本を週に1冊ぐらい買って、楽しんで読んでいます。積んどくになっていた書物もすこしずつ消化しています。今年も詩集はたくさん読みました。味読という感じで読めればいいのですが、それができる時間が欲しいです。C.G.ユングは折りにふれて読むのですが、この秋も3冊ほど読みました。
(著者に注文して下さい。著者住所:〒154世田谷区弦巻4-6-18)

解剖図譜/築山登美夫/TEC/定価1600円(送料込み)
 *
そこに蹲っていると
さまざまな風景が視えてくる
汚れを落とそうと鰭をばたつかせて
かえって泥まみれになってしまう
泥海の魚
なだれ落ちてはさかのぼり
そこが元の位置だとは気づかずに
くりかえしなだれ落ちていくエッシャーの滝
あらゆる方向に並列した蛆虫のむれが互いを忌避しながら
けっして交わらずに遠ざかっていく
なだらかな斜面
さまざまな風景が乱脈に
ひとつの舞台のなかに組みこまれる
灰をかぶった登場人物の顔はみわけがつかず
せりふから直接性は剥ぎとられ
それぞれに勝手気儘な長広舌をふるっている
その舞台のなかに入って行くと
そこが広さも奥行きもない寝室であることを知らされる
私たちはそこで心ゆくまで
たがいの体をあじわいつくす
  (「夢がたり 三つの断片」より、第二の断片)
【著者紹介】1949年10月生れ。詩集『海の砦』(82年/弓立社刊/1400円)、『解剖図譜』(89年/TEC刊/1600円)。
【近況】今年の夏は息子と隠岐島に行ってきました。記憶の写真がたまります。ひどく消耗しながら、みじかい瞬間のかがやきを追いもとめていくしかないのでしょう。女のところへ行こうとしてバイク事故で重傷を負い、顔面マヒのまま堂々と記者会見に現れたビートたけしは男の鑑だと思いました。そして、〈女〉なるものとの葛藤のあげくの吉行淳之介の〈戦死〉も。だれも非難できない大義や人権をうりものにしてきた「今年度ノーベル文学賞作家」とはエライちがいだ。本のオススメは竹田青嗣『ニーチェ入門』、小浜逸郎『ニッポン思想の首領たち』――ともに現在をのりこえようとする試みの煮つまった停滞のはてに、唐突に未来に出てしまった感のある力作で、共感をおぼえずにはいられません。云わでもがなのことでしょうが、これらの仕事を政治に翻訳すれば、現在の自社連立政権なるアンシャン・レジームを根柢的に否定していることになります。(94/10)(現住所〒145大田区北千束2-15-12-302)

長編書き下ろし!
倉田良成詩
〈金の枝のあいだから〉/私家版/頒価2300円(送料共)
挿画・造本/三嶋典東

はげしい視線が照射する
十月を堪えてあるく
世界のおおきな翳りのなかを
むらがりあつまる朝焼け
秋の身体に迷走神経のようにからまる
ねじれた風の束のむこうから
たびびとがやってくる  (パート6「たびびと」より)
【近況】主義、というほどではないけれど、コーヒーにはクリームを入れないで飲んできましたが、最近になって無慮ウン十年ぶりにクリームを入れるようになりました。なんだかブラックコーヒーに体のほうが倦んできた感じです。これも年のせい、ということになるのでしょうか。月に二篇は作品を書くこと!

パソコン通信で「Booby Trap」の一部が読めます!
◎Panix BBS
・所在地 東京
・ホスト mmm
・電話番号 03-5430-7062
音楽、読書などの話題を中心とした草の根ネットです。現在52人の会員がいて、楽しいコミュニケーションをしています。guestでログインすれば入会手続きができます(入会無料、接続分の電話代がかかるのみです)。pmdさん、rapperさんが運営している世田谷区にあるBBSです。「Booby Trap」編集者や一部執筆者と電子メールの交換ができ、過去の作品の一部をボードで読むことができます。通信のやり方は編集者まで気軽にお尋ねください。(執筆者ID=gizmo[清水鱗造]、nyagao[長尾高弘]、SINKAN[園下勘治])

【編集後記】いろいろ、Booby Trapに関連させてやってみたいことがあるのだけど、16号を編集しつつ書き手たちと相談して、来年にはやってみたい。バックナンバーは12〜14号のみ残部あります。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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