浮世の船にゆれて

沢孝子




浮世の夢の船にゆれて 辿りついた夜のくるわ その水酔いの道程に 海の性をさぐる

浮遊がなしは裏切った しきたりの格子をひらき 大胆になる乳房の闇歌で巫女の座に

彼方に頑固な雲の瞳がまばたいて 袖口にながれた血の 赤い星の 笑い思いだす

異界の港でさわいだ蛇皮線にある月の嘔吐 立ち踊りの島のしぐさで 一瞬にして醒めていった無の海のひろがり

大和世に荒れている浮世の船の暴風 それからは黒豚の交尾の御馳走で夢の旅

服従していた琉球世の言葉で 出家ぶしょうの膝頭の定形を抱く 失われた愛で展開していたくらい海


乱立してきたさまざまな帆に たかだかと法螺ふくみだれ藻 かくれる島の岬に閉じていった貝

季節ごとになびいていく夜の器の 裏切っていく乳房の闇歌で 浮世のくるわの空にとなえる呪文

敗走していく夢の船は哀願だった 頑固な雲の瞳がゆれる袖口に さわぐ蛇皮線の赤い星はかがやいて

途方もない望みをたくした定形に月がかかり どうしたのだろうか 服従したくるわで抱く無惨な膝頭の嘔吐 すする海の湾の熱

古代から難破をくりかえしている台風を 黒豚の交尾の御馳走で浮世の船によびよせて まさつしていく赤い星の瞳


大和世に閉じていった貝の異常な展開で こんなにも築かれてしまった海の心のくらい屋形 失われた琉球世の言葉をさがして

浮世のくるわにいるメーレ(娘) 立ち踊りの島のしぐさで 酔いしれている水の刑の たわむれる夜の海の藻に 遊んだ日の岬に

格子を大胆にひらく闇歌のキヨラ(美しい) 古代の空にひろがる乳房で 踊りつかれている海の刑の さまよう夜の島に 訪ねた日の藁屋根に

黒豚の交尾の御馳走でクワガ(子供が) 一瞬にして醒めた心のくらい屋形 眠りつづけている夢の刑の よみがえる夜の黒糖に ふくらむ日の樽に


乱立してきたさまざまな帆にクッサル(殺される) 頑固な雲の赤い瞳がよびよせる 立ちあらわれる死の刑の うきあがる夜の月に 巫女となる日の器に

浮世のくるわで浮遊がなしは問うている 琉球世の立ち踊りの島のしぐさで 夜の海の蛇皮線のひびきで

浮世にゆれる船で出家ぶしょうに語っている 大和世の定形の愛を抱く無惨な膝頭で 古代から難破をくりかえしてきた台風で

(改稿)/


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