仮面にはらむ夏

沢孝子



 仮面にはらむ夏  何か ジリジリと  世界の割れるかおではない  古代の軋むこころではない 花の散る舞台を演じている 巫女からもらった 都市に沈むむいしきの 犯罪のかお 三百年の海のことばがある にわか あやつってくる照明に すりよっているわらじの跡の 幕の裏の罪 蚕の死が…… 眼のなかをはしりだす その以前 三百年のむいしきに 割れてきた 都市の世界の 海のことばは 犯罪のかおになる 武の別れの舞台を演じている 巫女の座がますあつみ 列島に祈るむいしきの 犯罪のこころ 三百年の月のうたがある 不可解な ふりしきってくる和紙の雪に げきじょうしたらあしの跡の 幕のおもての罰 蛇の狂いが…… 唇のおくへのがれでる その前世の 三百年のむいしきに 軋んできた 列島の古代の 月のうたは 犯罪のこころになる  何か ジリジリと  仮面にはらむ夏の  割れた世界のことばのように  軋んだ古代のうたのように 海のことばで対話した 花の散っている舞台 一時は 都市のむいしきにある やわらかい三百年のかおで沈み 海ははしるおと 泉がなしの犯罪はあまりにも単純すぎる あやつってくる照明に ふるえていた幕間の展開があり 幕のうらの罪の 花の掟へすりよった時代の 蚕をかかえるわらじで 死の跡を演じている 星をかぞえた夜空のような 海にうねってくる掟を つきぬけていた空間の 三百年のむいしきに沈む 割れてきた 都市の世界の 海のおとが 犯罪のことばの器にふれていく 月のうたで交わっていた 武と別れている舞台 一時は 列島のむいしきにある ふせていた三百年のこころで祈り 月にのがれでたこえ 湖ぶしょうの犯罪の深さははかりしれない ふりしきってくる和紙の雪に こおってくる幕間の展開があり 幕のおもての罰の武の掟へげきじょうした時代の 蛇をおもうらあしで 狂いの跡を演じている 閉ざされていた隙間のような 月ににじんでくる掟へ よばいしていた共同体の 三百年のむいしきに沈む 軋んできた 列島の古代の 月のこえが 犯罪のこころの剣にふれていく  おとがする 割れた世界の  こえがする 軋んだ古代の  何か ジリジリと  仮面にはらむ夏がやってくる 巫女からもらった 都市に沈むむいしきの 「ああ なんて多い支配者」 三百年のおとの海のやわらかさで ひざまずいていた わらじの死の跡にある 幕のうらの罪の蚕をかかえて 花の散る舞台を演じては 築いていった日の うねっている海の掟 つきぬけていた空間の ことばの犯罪にある 器にふれて 都市のかおがわらっている 仮面にはらむ夏の かたくなな願望がわらいころげて その魅力となる にじむ月の掟 よばいしていた共同体の こえの犯罪にある 剣にふれて 列島のこころがいかる 武の別れの舞台を演じては とたんにひろがった年の しのびよるあらしの狂いの跡 その幕のおもての罰にある 蛇をおもって ふせていた三百年の月のこえが 解体していくための作業を開始する 倒れた巫女の座のあつみで 列島に祈っていたむいしきにある 「なんて多い ああ 支配者」へ 仮面にはらむ夏の 幕のうらの罪にある 都市が割れた世界の 海のかおのわらいを 幕のおもての罰にある 列島が軋んだ古代の 月のこころのいかりを わたしは 聞いたか! そこに座していた 巫女の 泉がなしの股座にある 蚕の死……その都市の器と 三百年のむいしきを支配している掟の 湖ぶしょうの肩肘にある 蛇の狂い…… その列島と剣とは きみは 無縁であるか! 何か ジリジリとやってくる 舞台を演じては 幕間に展開していた 「支配者は ああ なんて多い」と はしりだす 眼のなかを のがれでる 唇のおくを あなたは 見たか!

(改稿)


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