私の壁

長尾高弘



私の壁は鉛筆書きである しかし壁などというものは 少し抽象化すれば わざわざ書くまでもないものではなかろうか? といって何も書かれていなければ それをわざわざ壁と呼ぶ必要もない それに実際に書かれているのは 壁のしみ、ひび、汚れで 壁自体は書かれていないのだ なのにそれは私の壁になっている おまけに鉛筆書きだ たったそれだけのことで 私の自由は制限されている 壁の向こうには行けないし 壁の向こうは見えない 迷惑な話だ しかしいったいどうして その壁は私の壁なのだろうか? 私はそんなものを望んだ覚えはない 望まないものを抱え込んでいる必要はないではないか そこで私は私の壁を共有に付することにした これで壁はみんなのものだ みんなの壁は鉛筆書きである

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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