陽の埋葬

田中宏輔



      庭にいるのはだれか。   (エステル記六・四)       妹よ、来て、わたしと寝なさい。   (サムエル記下一三・一一) 箪笥を開けると、  ――雨が降っていた。 目を落とすと、  ――雨蛙がしゃがんでいた。 雨の庭。 約束もしないのに、  ――死んだ妹が待っていた。 雨に濡れた妹の骨は、  ――雨のようにきれいだった。 毀(こぼ)ち家の雨の庭。 椅子も机も卓袱台(ちゃぶだい)も、  ――みんな庭土に埋もれていた。 死んだ妹もまた、  ――肋骨の半分を埋もれさせたまま、 雨に肘をついて、待っていた。 肋骨の上を這う、  ――雨に濡れた蝸牛。 雨に透けた蝸牛は、  ――雨のようにきれいだった。 手に取ると、すっかり雨になる。 戸口に佇って、  ――扉を叩くものがいる。 コツ、コツ、と、  ――ひとり静かに叩くものがいる。 庭立水(にわたみず)。 わたしは、  ――何処へも行かなかった。 死んだ父も、また、  ――何処へも行かなかった。 戸口に佇(た)って、扉を叩いていた。

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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