谷元益男



いつもの道を 車で大きく曲ったとき 兎が轢かれ 肉片が飛び散っていた それが 猫でないと 見分けられるのは 毛が周囲と同じ枯れ草色をして 耳が路面に長く立っていたからだ 次の朝 同じ場所を走った時 血は黒味をおびて 兎とは別な生きものの 形となり 行き交う車輪に 歯型をつけていた 潰された影が ウインドーガラスに張りついている それから何日か経って 通ると 肉は鳥がついばんだのか ほとんど残ってなく 兎の皮だけが 野山を走った夢をうつすように ゆっくり跳ねる 長く路面に立っていた 耳は そこにはなく 降りる車のバックミラーに するどく映っている

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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