頭をたたくと、泣き出した。

田中宏輔



カバ、ひたひたと、たそがれて 電車、痴漢を乗せて走る。 ヴィオラの稽古の帰り、 落ち葉が、自分の落ちる音に目をさました。 見逃せないオチンチンをしてる、と耳元でささやく その人は、ポケットに岩塩をしのばせた 横顔のうつくしい神さまだった。 にやにやと笑いながら、 ぼくの関節をはずしていった。 さようなら。こんにちは。 音楽のように終わってしまう。 月のきれいな夜だった。 お尻から、鳥が出てきて歌いだしたよ。 ハムレットだって、お尻から生まれたって言うし。 まるでカタイうんこをするときのように痛かったって。 みんな死ねばいいのに、ぐずぐずしてる。 きょうも、ママンは死ななかった。 慈善事業の募金をしに出かけて行った。 むかし、ママンがつくってくれたドーナツは 大きさの違うコップでつくられていた。 ちゃんとした型抜きがなかったから。 実力テストで一番だった友だちが 大学には行かないよ、って言ってた。 ぼくにつながるすべての人が、ぼくを辱める。 ぼくが、ぼくの道で道草をしたっていいじゃないか。 ぼくは歌が好きなんだ。 たくさんの仮面を持っている。 素顔の数と同じ数だけ持っている。 似ているところがいっしょ。 思いつめたふりをして、 パパは聖書に目を落としてた。 雷のひとつでも、落としてやろうかしら。 マッターホルンの山の頂きから ひとつの絶叫となって落ちてゆく牛。 落ち葉は、自分の落ちる音に耳をすましていた。 ぼくもまた、ぼくの歌のひとつなのだ。 今度、神戸で演奏会があるってさ。 どうして、ぼくじゃだめなの? しっかり手を握っているのに、きみはいない。 ぼくは、きみのことが好きなのに・・・・・・。 くやしいけど、ぼくたちは、ただの友だちだった。 明日はピアノの稽古だし。 落ち葉だって、踏まれたくないって思うだろ。 石の声を聞くと、耳がつぶれる。 ぼくの耳はつぶれているのさ。 今度の日曜日には、 世界中の日曜日をあつめてあげる。 パパは、ぼくに嘘をついた。 樹は、振り落とした葉っぱのことなんか、 かまいやしない。 どうなったっていいんだ。 まわるよ、まわる。 ジャイロスコープ。 また、神さまに会えるかな。 黄金の花束をかかえて降りてゆく。 Nobuyuki。ハミガキ。紙飛行機。 中也が中原(チュウゲン)を駆けて行った。

『陽の埋葬・先駆形』


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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