精子的

長尾高弘



絶望的にもてなかったので 四十になるまで入れなかった男 その女に巡りあえたのは奇跡的だった それでは早速と準備にかかる 出てきたときも頭が先だったから 入るときも頭が先 教わったわけでもないのに 器用に身体を折り曲げて ついに爪先まで収まった それから十月十日眠り続ける 最初は目立っていた女の腹も すっかり元通りになって 女自身何をしたのか忘れた頃に ぽろっとおたまじゃくしが転がり落ちた 精子からおたまじゃくしへの拡大 それが男の四十年の歳月である

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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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