タコにも酔うのよ。

田中宏輔



最初の出だしはこうよ。 ポプラ並木に寒すずめが四羽、 正しく話してると、 うつくしい獣たちが引き裂くの。 クレープが好きだと言ったわ。 魚座の男が好きだとも言ったわ。 鉄分の多い多汁質の声でね。 漆塗の灰皿。 だれにも使えない。 はじめてのセックスは、公衆便所だった。 一足(いっそく)の象の背に乗せられて 蟻の歌をつぶやいていた。 七つまでの夢。 お兄さんの貯金通帳に貢献してた。 お兄さんの手の指は、五本あった。 両方合わせて。 もちろん、返さなくて済むものなら、 返さない方が得だわ。 眉毛の禿げた出っ歯のドブネズミに惚れられて タクシーに飛び乗ったの。 分別って、金銭感覚のことかしら。 お昼に、二回ほど抜いてやったわ。 まるで鍾乳洞のつららのように。 いったい、ぼくは きみに何をしてあげられるんだろう。 ひたすら盲目になる。 セックスなんて簡単だし。 キッスだって平気よ。 アメリカに行くのが夢なの。 英語なんて話せないけどね。 夢さえあれば幸せよ。 ねえ、これで、ほんとに詩になってるの? こんなものだって、詩だって、言い張るヤツがいるよ。 わたしにもできることがある。 自分を忘れて、 着物を燃やすところを見つめている。 ぼくにできることって何だろう。 みんな、わたしに惚れるのよ。 一枚の枯れ葉が 玉手箱の背中にくっついてる。 風の手が触れると くるくると、  くるくると。 とうに、 蟻の歌は忘れてしまったけれど。 でも、もう二度と、 手首を切ったりなんかしないわ。 もう少し、 あと、もう少しで、夢がかなうの。 かなえてみせるわ。 玉手箱。 手あたりしだいに 鹿とする。

『陽の埋葬・先駆形』


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エキスパンドブック版  [98/4/6 朗読会]
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